あなたの疑問に専門家が回答!
生活習慣を見直す絶好のタイミングとは?
認知症は高齢期の病気と思われがちですが、そのリスクは若い頃からの生活習慣によって少しずつ積み重なっていきます。なかでも、体の変化を実感しはじめる50代は、予防のための行動を始めるのに最適なタイミング。認知症専門医の遠藤英俊医師に、50代から意識すべき、日常生活での具体的な取り組みを伺いました。
本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです
認知症予防には、「運動」「頭を使う」「人との会話」「栄養バランスの良い食事」の4つが効果的だと言われています。
「これらは年代を問わず、効果的です。特別なことではなく、日々の生活の中で少し意識を変えるだけで十分予防につながります」と遠藤医師は言います。
食事に関しては、特定の食品に偏らず、できるだけ多くの食品をバランスよくとることが大切です。
「とくに、野菜、豆腐、牛乳などには予防効果があるという報告があります」(遠藤医師)
運動の中でも、とくに認知症予防に適しているのが「有酸素運動」です。ウォーキングや軽いジョギングなど、呼吸が少し上がる程度の運動を習慣化することで、脳の血流が改善され、認知機能の維持につながるといわれています。
「有酸素運動に加えて、頭を同時に使う“コグニサイズ”が非常に効果的です。たとえば、歩きながらしりとりをしたり、簡単な計算をしたりするだけでも、脳への刺激が増えます」と遠藤医師は勧めます。
コグニサイズは認知症予防を目的に国立長寿医療研究センターが提唱した取り組みで、その効果を実証する研究も多数あります。専用の本や動画もあるため、初めての人でも気軽に取り組める点も魅力です。
忙しい世代にとって、十分な睡眠時間を確保するのは簡単ではありません。しかし、慢性的な睡眠不足は将来の認知症リスクを高める要因となります。
「睡眠時間が短いと、脳に老廃物のひとつであるアミロイドβ(アルツハイマー型認知症の発症の原因とされているタンパク質)が蓄積しやすくなります。50歳前後の睡眠不足が続くと、75歳ごろに認知症を発症する可能性があるという報告もあります」と遠藤医師は警鐘を鳴らします。
理想的な睡眠時間は1日7時間程度。逆に9時間以上の長時間睡眠も認知症リスクを上げるとされており、「適度な睡眠」がカギとなります。
医学誌『Lancet』は、「認知症の発症を防ぐために修正できる14の危険因子」を発表しました。それによると、教育水準の低さ、外傷性脳損傷、運動不足、喫煙、過度の飲酒、高血圧、肥満、糖尿病、聴覚障害、抑うつ、社会的孤立、大気汚染、視力低下、高LDLコレステロールがこれに該当し、これらをすべて取り除くことができれば、認知症の発症リスクを4〜5割減らせるとされています。
「認知症の有病率は過去10年で2%ほど減少しています。その理由のひとつが“学歴の上昇”です。高卒や大卒の割合が増えたことで、認知症リスクが自然と下がってきていると考えられています」(遠藤医師)
医学分野において影響力がある雑誌Lancetの常設委員会は、2024年、14の「修正可能な認知症の危険因子」を公開。各危険因子の修正を行う時期を、若年期、中年期、高齢期に分けるとともに、個々の危険因子の集団寄与危険割合(その危険因子がなければ発症が何%減るかを示した数字)を推定した。(イラスト:PIXTA)
50代は、認知症予防のスタートラインとして最適な年代です。「有酸素運動と頭の体操を組み合わせる」「多品目の食事をとる」「毎晩7時間の睡眠を確保する」といった基本の生活習慣に加え、「危険因子を知って予防につなげる」という意識も重要です。認知症はある日突然発症するわけではありません。長い年月をかけて静かに進行していきます。年齢を重ねてからではなく、“今”から始めること。それが、豊かな老後を送るための第一歩です。
Profile
遠藤英俊(えんどう ひでとし)医師
認知症専門医 聖路加国際大学臨床教授 名城大学特任教授

1982年滋賀医科大学卒業、87年名古屋大学大学院医学研究科修了。総合病院中津川市民病院内科部長、国立療養所中部病院(現・国立長寿医療研究センター)内科医長などを経て、国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長および老年内科部長を務め、2020年3月に退職。現在は聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授。著書は『最新 ボケない! “元気脳”のつくり方』(世界文化社)、『よくわかる認知症Q&A ―知っておきたい最新医療とやさしい介護のコツ―』(中央法規出版)など多数。認知症、高齢者虐待問題、介護保険関連を専門とする。
本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです
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