
「ともに投資する」流儀で挑む47兆円の国内プライベートクレジット市場
デフレ脱却とインフレの到来、産業構造の大転換、そして超高齢社会——。いくつもの構造変化が重なる日本に、世界最大級のオルタナティブ運用会社アポロ・グローバル・マネジメントが熱視線を送る。2025年にアジア太平洋地域代表に就任した植田栄治氏と、日本代表の柏樹康生氏が、日本における戦略を語り合った。
投資家と同じリスクを取る
「プリンシパル」姿勢が生む安心感
柏樹氏 日本は現在、長く続いたデフレからの転換点にあります。金利上昇や賃上げ、企業改革の進展といった変化を受け、企業は資本の使い方そのものを見直しつつあり、資本効率と成長投資のバランスをどのように取るかが問われています。また投資家や家計も、預金だけでは実質的な資産価値を守りにくくなり、NISA(少額投資非課税制度)などを通じたリスク資産への資金シフトが顕著になっています。
こうした一世代に一度と言える企業の資金需要と個人の資産形成ニーズの変化の狭間で、日本にはプライベートクレジットやプライベートエクイティをはじめとするプライベート資産の巨大市場が生まれつつある。その潜在的な成長機会に、大いに注目しているのです。
アポロ・グローバル・マネジメント
パートナー 日本代表
柏樹 康生氏
アポロ・グローバル・マネジメント
パートナー アジア太平洋地域代表
植田 栄治氏
植田氏 世界規模で見ても、AI関連のデータセンター整備、エネルギー転換、サプライチェーンの再構築など、産業の大変革期が到来しています。こうした我々が「グローバル・インダストリアル・ルネサンス(世界の産業ルネサンス)」と呼ぶ新たな産業サイクルは、日本経済の飛躍の大きなチャンスです。しかし、この好機を生かすには、前例のない規模の投資が必要になるだけでなく、より柔軟で、より長期にわたり、かつ競争力強化に資する専門性を備えた“質の異なる資本”、つまりプライベート資産が不可欠と言えます。
アポロはこれまで、プライベートクレジット、プライベートエクイティをはじめ世界中の様々なプライベート資産への投資を通じて、企業の成長を支援してきました。そんな当社がとりわけ日本企業の成長に寄与する資金供給手段として注目しているのが、プライベートクレジットです。
プライベートクレジットと言えば、企業買収などに用いられるレバレッジド・ローンなどの「格付けの低いクレジット」が連想されるかもしれません。ただ、実際には大部分が投資適格級の格付けを有しているうえ、その裾野は非常に広く、投資領域も企業への融資のみならず不動産やインフラ、航空機ファイナンスなど様々です。アポロはとくに投資適格級の信用度を持つプライベートクレジットや、大企業向けプライベートクレジットへの投資に注力しており、いまやAUM(資産運用残高)の大半がそうした投資先に向けられています。高品質なプライベートクレジットを中心とした幅広いプライベート資産ソリューションの提供を通じて、変革に向かう日本企業と、不確実性のもとで魅力的な投資機会を模索する投資家の架け橋になることが、当社の使命だと考えています。

柏樹氏 我々は、例えば日本のプライベートクレジット市場は、投資適格プライベートクレジットや(資本と負債の中間的な性格を持つ)ハイブリッドファイナンスを含めて今後5~10年で3000億ドル(約47兆円)規模まで成長する余地があると見ています。
世界の産業ルネサンスのなか必要とされるデータセンターやエネルギー関連の設備投資のような巨額かつ回収期間の長い資金需要は、銀行融資では対応しきれなくなるでしょう。そこで、個々の企業や案件に合わせて非公開で組成されるプライベートクレジットなどのプライベート資産によるファイナンスが、より柔軟な融資期間や契約内容をもって選択肢に加わることで、はじめて真に必要とされる資金需要を満たせると考えているのです。
植田氏 投資家の目線では、プライベート資産は長期目線での投資成果の追求が必要になる代わりに、伝統的な株式や債券より魅力的な利回りとポートフォリオの分散効果が期待できる投資対象です。国内外の機関投資家は、近年プライベート資産へのアロケーションを増やしています。個人の退職金運用の選択肢として定着している国も少なくありません。プライベート資産投資に馴染みの薄い日本の個人投資家が資金を投じるにあたっては、自らの資産を託す運用会社に対する、揺るぎない信頼を築けるかどうかが焦点となります。
ここで強調したいのが、アポロがプリンシパル(自己資金投資家)として顧客と同じプライベート資産に自らも投資していることです。アポロは傘下に、定額年金保険を中心にリタイアメント・ソリューション(退職後の資産形成に向けた運用商品の提供)を展開するアテネという保険会社を持っています。年金保険という性格上、アテネが保険加入者から預かる保険料は10~20年などの長期の負債となり、効率的な資産運用のために、それに見合う長期の投資先を必要とします。そこで、世界中の投資適格中心のプライベート資産を、外部投資家だけでなく、アテネのバランスシート(自己勘定)にも配分しているのです。
投資家の皆様に対しては、これは運用会社が「代理人」ではなく「当事者」として行動しているという大きな安心材料となります。我々が単に手数料を得る立場にあるのではなく、利益とともに潜在的な下落リスクも投資家の皆様と分かち合う構図となっているからです。同時に企業に対しては、変革をやり切るために十分な期間を持つ資本を供給できます。
“新たな種類の資本”の魅力と
可能性を日本市場に届ける
柏樹氏 アポロは、投資活動と金融機関の皆様とのパートナーシップの双方を通じて、私たちが“新たな種類の資本”と捉えるプライベート資産の可能性を、日本の企業と投資家に継続して届けていきたいと考えています。プライベート資産への投資機会を広げていくことは、1社の力では到底成し遂げられません。パートナーシップが不可欠なのです。
アポロは銀行融資と競合するのではないか、とよく聞かれます。しかし先述の通り、世界の産業ルネサンスに立ち向かう日本企業の資金需要に応えるには、プライベートクレジットをはじめとするプライベート資産が銀行融資を補完し、日本の金融システム全体のキャパシティを拡大していくことが重要です。キーワードは「競争」ではなく、既存金融機関との「協働」です。
アポロは、すでに三井住友トラストグループとの間に、リテールおよび企業年金ビジネスを含む国内投資家向けの幅広い協業体制を構築しています。また野村證券、野村アセットマネジメントとは、「アポロ・マルチ・オルタナティブ・ストラテジーズ・ファンド」という公募ファンドを共同で立ち上げました。このファンドは、プライベートクレジット、プライベートエクイティ、不動産、インフラといった主要なプライベート資産に、ひとつのファンドで分散投資できる設計になっており、アポロ自身が最大の投資家として自己投資しています。これにより、国内投資家がこの市場の魅力に、より安心して親しめるようになっています。