経済・企業 SDGs最前線

⑰フォーバル、「企業ドクター」で中小企業5万社の経営を改善――DXや業務効率化支援で地方の企業を活性化

フォーバルの中島將典社長
フォーバルの中島將典社長

 国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsやサステナビリティ(持続可能性)の考え方を成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。

 第17回目は、ITコンサルティングのフォーバルを取り上げる。同社はDX(デジタルトランスフォーメーション)や経営戦略をアドバイスする「企業ドクター」を派遣し、地方を中心に約5万社の中小企業の経営を改善させてきた。地方自治体や金融機関、大学などと協力し、地域の企業ドクターの育成にも取り組んでいる。同社の中島將典社長は「中期的には47都道府県全てに企業ドクターがいて、中小企業がいつでも相談できる環境をつくりたい」と話す。

【フォーバルが実践する主なSDGsの目標】・目標8(働きがいも経済成長も)・目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)

中小企業の6割超が赤字、経営者の無駄遣いも多く

 富山県屈指の漁獲量を誇る滑川漁港を持ち、製造業の工業都市でもある滑川市。2023年から、市内の赤字企業の再生が始まっている。自治体を中心に、3年間でやる気のある20社の経営を改善し、黒字転換を目指すという試みだ。市内のデジタル人材も育成し、企業の業務も効率化する。

市から委託を受けたフォーバルの中島社長は「課題を抽出し、無駄な経費を削減し、取引先との条件変更や製造工程の見直しなどを丁寧に実施していけば、黒字化は十分可能だ」と自信をみせる。滑川市の水野達夫市長も「市内の若者をデジタル人材に育成することが持続可能な街づくりにつながる」と期待する。

 日本の中小企業は約300万社ある。しかし、23年度の国税庁の「国税庁統計法人税表」によると、そのうち赤字企業が193万650社と全体の約65%を占める。フォーバルはこうした経営不振の企業が抱えるさまざまな課題を「病気」に例え、DXの推進や業務効率化、収支バランスの改善などを支援する「企業ドクター」を派遣してきた。

赤字企業の財務と情報システム調査し、課題抽出

 企業ドクターは、赤字企業の財務状況・情報システムなどを詳細に調査し、課題を抽出。経営者に課題を説明し、解決策と今後の経営改善のロードマップ、対策を実施した場合に想定される効果を提示する。定期的に効果測定し、短期間に赤字を解消していく。病院の主治医が患者の病気の内容を診断し、治療するのに似ていることから、フォーバルは自社のコンサルタントを企業ドクターと呼んでいる。

 中島社長は日本に約200万社も存在する赤字企業について「資金繰りのために政府系金融機関などが多額のお金を貸しており、回収不能・困難の恐れがある債権は計1兆5633億円に上っている」と指摘。「国がセーフティネットをいくら整備しても、赤字企業を黒字転換させなければ根本的な課題解決にはつながらない」と主張する。赤字企業にいくら資金を供給し続けても、経営自体が改善しなければ最終的には倒産してしまうからだ。倒産して貸した金が返らなければ、結局は国民の税金で賄われることになる。

とはいえ、同社は大半の赤字企業を黒字転換させるのは必ずしも難しくはないという。実は赤字企業は数百万円程度の損益を改善すれば黒字化することが少なくないからだ。「ワンマン経営者が無駄な経費をたくさん使ったり、社員が効率的な営業活動のやり方がわからなかったりして小幅な赤字が続いているケースが少なくない」(中島氏)のが実態だ。

1年で500社の4割が黒字転換

フォーバルの滑川市での成果報告会
フォーバルの滑川市での成果報告会

実際、フォーバルが2年前から東村山市、袋井市などの地方自治体と協力して赤字の中小企業約500社を対象に経営改善の実証実験を実施したところ、41%もの会社がわずか1年で黒字転換したという。

フォーバルは、まず地域の企業と自治体、金融機関、地元の大学などが協力するコンソーシアムを設立。それぞれに役割を持たせた。例えば、金融機関は中小企業の資金繰りを支援したり、潜在顧客を紹介したりする。自治体は補助金や施設を提供し、広報活動も協力している。

フォーバルが派遣した企業ドクターは、赤字会社の経営者らの会食などの「無駄遣い」をなくし、会社から出ていく経費を削減。営業用のSNSも整備し、問い合わせを受けられるようにする。通信ネットワークを「見える化」し、情報セキュリティも強化する。万が一、機密情報が流出して多額の賠償金が発生すれば、中小企業の資金力や信用力では会社の存続自体が難しくなるからだ。

大学生でも研修受ければ「企業ドクター」に

さらに自治体や地元の大学と協力して企業ドクターも育成する。大学生でも研修を受けられ、卒業すれば企業ドクターになれる。フォーバルの社員以外の企業コンサルタントでも研修や資格取得の対象となるという。フォーバルはすでに23の自治体に「企業ドクター」を置いており、将来は全都道府県に企業ドクターを設置したい考えだ。

 政府はSDGsを原動力に地方創生を進めることを「地方創生SDGs」と定義する。総務省統計局によると、23年10月時点で人口増加を記録したのは東京都のみで、46道府県で人口が減少した。人口減による人手不足の対策は、待ったなしの状況だ。企業ドクターと、産官学金の連携を原動力に、地方の自治体や企業に新風を吹き込むことができれば、地方創生SDGsにも、人口減の対策にも、そして持続可能な地域社会の達成にも一役買うことになる。(編集協力 P&Rコンサルティング)

SACCOの加藤俊社長
SACCOの加藤俊社長

かとう・しゅん(株式会社SACCO社長)

 企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。

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