日本ヒュームが東京都下水道サービスと共同開発した低炭素型高機能コンクリート「e-CON」が、下水道管など社会インフラの老朽化が顕在化している中で脚光を浴びている。製造時のCO2を約80%削減したうえ、耐用年数100~150年と試算されるその先進性が評価され、第34回「地球環境大賞」(主催:フジサンケイグループ)の環境大臣賞にも選ばれた。下水道や農業用水に使われるヒューム管のパイオニアとして、先人から紡いできた多彩な技術を生かした同社の未来戦略とは――。
日本の下水道インフラを支えてきたヒューム管の老舗企業、日本ヒュームは2025年10月20日、創立100年を迎えた。今日では下水道管にとどまらず、基礎杭やプレキャスト製品にも強みを発揮し、設計・製造・施工・維持管理を一貫して担う〝総合コンクリート企業〟としての地位を確立。次の100年を見据え「インフラを未来につなぐ会社」へとさらなる“新化”を図るための次世代戦略を増渕智之社長に聞いた。
「衛生環境を改善したい」と有志が事業を立ち上げる
「ヒューム管」という製品名に馴染みはなくても、私たちの生活はこのコンクリート製品なしには成り立たない。全国に網目のように広がる下水道をはじめ、田畑に水を引く灌漑、さらには集中降水時に機能する都市部の雨水管・貯留管など、主に地下で活躍する唯一無二のコンクリート管のことである。創業以来、その開発と普及に注力してきたのが日本ヒュームだ。「世間の皆さんには『ドカン』なんて言われていますけど(笑)、なくてはならない存在なんです」と増渕社長は自社製品の価値を強調する。
1925年の創業時を振り返ると、製品の開発背景には「欧米に劣る日本の衛生環境を改善したい」という実業家ら先人の熱い思いがあった。関東大震災直後、避難所など各地でし尿が滞留し衛生環境が深刻化する状況下、シンガポールの視察先で見かけたヒューム兄弟(豪州)が発明した鉄筋コンクリート管に可能性を見い出した。
鉄とコンクリートを一体化し強度を高め、遠心力を応用して量産化できる画期的な製管技術は、日本の地に衛生インフラを一気に根付かせる突破口となった。
「当社の創業メンバーが製管機や付属品を輸入し製造を始めたのですが、当時はノウハウがまったくありませんでしたので、本格生産に至るまで大変苦労したようです。初代社長の浅野泰治郎(二代目・浅野総一郎)は早くから技術者の育成にも力を注ぎ、それが当社の土台を築くことになりました」
普及の過程で同社は「ヒューム管のパイオニア」として、全国各地に製造技術を惜しみなく伝えてきた。以来100年を経たいま、日本だけでもヒューム管は「地球2周分以上」地中に埋設されるに至った。
インフラの長寿命化へICT(情報通信技術)活用にも意欲
創業当初の「社会資本を豊かにしたい」というミッションは、現在にも脈々と受け継がれており、それが社会課題解決に向けた同社の取り組みの原動力となっている。
例えば、阪神・淡路大震災(1995年)では、地震の衝撃を逃す特殊な下水道管設備の開発に着手。「地中に埋まっていて、非常に重量のある下水道管は、実は地震に強いんです。ただ、地表のマンホールから続く管と、下水道管の接合部は揺れの影響を受けやすく、震災以降はそこを見直しました。新潟県中越地震(2004年)では、液状化によってマンホールが地面から浮き上がり、下水道が使えなくなったり、道路が塞がれたりする事態が発生しました。〈これは早急に対策すべきだ〉と考え、マンホールの浮上を防ぐ工法を開発しました」
インターネットが急速に普及した1990年代は、下水道管に光ファイバーケーブルを通して、情報通信網の高度化にも貢献。この光ファイバーはデータ伝送にとどまらず、センシング技術に活用することも期待でき、将来的には「老朽化や損傷の兆候を知らせてくれるセンサーの働きを下水道管に付加したいと考えています」とICTを用いた情報管理に意欲をみせる。
100年企業である同社の強みは、持ち前の団結力で時代のニーズに応じた革新技術を生み出し続けてきた歴史にあるといえる。ヒューム管の普及以降、高度経済成長期には既製コンクリート杭で基礎事業に進出。さらに、プレキャスト製品やICT施工管理など、社会課題を見据えた開発へと領域を広げた。現在は、国内5工場(苫小牧、熊谷、三重、尼崎、九州)で設計・製造・施工・維持管理を一貫して提供しており、まさに“総合コンクリート企業”へと進化した。
低炭素型コンクリートや遠隔施工管理も実用化
しかし、「100年企業は過去の話。私たちにとってはいまからがスタートライン」と増渕社長は手綱を緩めない。今後は未来の社会インフラにふさわしい技術と社内体制の整備をより加速させていく。
現在進行中の中期経営計画「23ー27計画R」(2023ー2027年度)は、その思いが色濃く反映されており「200年企業」への布石を打つものとなっている。ヒューム管をはじめとする下水道のインフラ新設需要に応えるだけでなく、長寿命化に向けた新技術の開発などを強化、持続可能なインフラの実現に向けて取り組んでいる。
象徴的なのが、セメントに代わる主成分(産業副産物)を90%以上含み、CO2排出量を約8割削減した低炭素型高機能コンクリート「e‐CON」だ。東京都下水道サービスとの共同開発製品で、従来品に比べ耐酸性10倍、耐塩害性5倍の性能をもち、耐用年数は100〜150年と試算する。老朽化が進む社会インフラの刷新に向け、全国での普及を目指す計画だ。
また、2025年1月に埼玉県八潮市で起きた下水道管に起因するとみられる道路陥没事故の記憶も新しい中、老朽化したインフラ管理の課題が顕在化された。しかし、下水道管の調査・点検は常時汚水が流れているため危険かつ過酷にもかかわらず、人力に依存せざるを得ないのが現状だ。だからこそ「われわれメーカーとして、下水道に携わる人たちの働き方を考えていかなければならないタイミングだと思っています」と語気を強める。
一方、基礎事業の分野においても、環境負荷の低減や施工の効率化を意識した取り組みが進んでおり、2025年1月には産業廃棄物となる発生残土を大幅に削減できる環境配慮型の新工法「CP‐X工法」をリリースした。
さらに、ICT施工管理システム「Pile‐ViMSys(パイルヴィムシス)」は、巨大な杭の施工状況を遠隔地からリアルタイムでモニタリングができ、重機作業の安全性と効率性を飛躍的に向上させた。現在はこの技術をプレキャスト分野にも展開し「現場の働き方改革」に取り組む。今後は、蓄積したデータをもとに、施工のアシスト機能も開発する予定だ。
「建設現場に限った話ではありませんが、今後、人手不足はますます深刻化していきます」と危機感を抱く。こうした中、省人化対策の一つとして同社が着手したのが3Dプリンティング技術を活用したプレキャスト製品の製作だ。
一般的なプレキャスト製品は鋼製の型枠にコンクリートを流し込んで成形したのち、型枠を取り外す。鋼製型枠は専門業者が製作を担うが、複雑な形状で高い精度が求められるため、納期が3カ月に及ぶこともあるという。
そこで同社は、鋼製型枠を使用せず、3Dプリンターで自動成形した型枠を製品の一部として活用することで、製造期間の短縮と省人化に取り組んでいる。現在は型枠をつくるための材料自体も自社でまかなえるよう開発のピッチを上げている。
「われわれは、ヒューム管、基礎杭、プレキャスト製品の三事業を手がける製品メーカーであり、工事会社でもあります。この特色や社内横断的な視点がイノベーションを生んでいると感じています」と手応えを強調する。
挑戦し続ける企業文化がイノベーションを生む
「200年企業」に向け、研究開発への姿勢も見直した。社内では研究開発を事業として成立させる意識をもたせる意味を込め、あえて「事業開発」と呼び、社会課題の解決につながる技術には積極的に投資する方針を明確化している。開発費も2023年度以降、約4億円と2倍に増額した。「失敗すべくしてした失敗」以外は許容される社風のもと、社員の挑戦意欲も非常に高いという。
「製品の多くは地下に施工されるため目立った存在ではありませんが、確実に社会を支えている――。それが私たちの誇りです」と語る。その上で、先人から脈々と継承してきた「全従業員が一致協力し、常に挑戦し続ける」という社風はそのままに、脱炭素や省人化などイノベーションを着々と創出する同社の成長が期待される。
『週刊エコノミスト』2025年9月16日号付「100年企業物語」を再録。








