原油100ドル超高止まり 備蓄難しいLNG 栂野裕貴
イランを巡る戦争が長期化し、石油関連施設の破壊が続けば、原油価格は1バレル=100ドルを超える水準で高止まりする可能性が高い。
中東情勢が緊迫化している。多くの船舶が、石油・液化天然ガス(LNG)輸送の要衝であるホルムズ海峡の航行を避けており、同海峡は「事実上の封鎖」状態にある。足元では、イラン当局による機雷の敷設観測が強まっているほか、通過を試みるタンカーへの攻撃を行うなど、同海峡が「本格的な封鎖」状態に移行しつつある。
ホルムズ海峡の封鎖は、すでに足元の原油価格を押し上げているが、次の二つの条件がそろえば、原油価格の指標であるWTI先物価格が1バレル=100ドル超で高止まりする可能性が高い。
第一に、戦争の長期化である。米国・イスラエルとイランの双方ともに強硬姿勢を崩しておらず、停戦がいつ実現するかは不透明である。多くの先進国は、石油備蓄を90日分以上確保しており、こうしたバッファーの存在が、ホルムズ海峡封鎖による石油輸送の停滞を「フロー(調達)上の危機」にとどめ、深刻な石油不足という「ストック(備蓄)上の危機」に至ることを防いでいる。しかし、海峡の封鎖が長引き、中東産石油が届かない中で各国の備蓄が枯渇するとの懸念が強まれば、価格上昇圧力は大きく高まる。
第二に、中東産油国の石油関連施設の破壊である。米国・イスラエルがイランのさらなる弱体化を狙って石油関連施設を徹底的に空爆したり、イラン側もサウジアラビアやアラブ首長国連邦といった周辺産油国の石油設備を次々と攻撃したりする事態に至れば、世界の石油供給は一段と下押しされる。一度破壊された設備の再建には時間がかかるため、供給制約が長引く。
世界のLNG貿易量の2割が通過するホルムズ海峡の封鎖は、天然ガス価格も押し上げている。今後、戦争が長引くにつれて、天然ガスに対する価格上昇圧力が高まっていくとみられる。
LNGは石油よりも備蓄が難しく、「フロー上の危機」が「ストック上の危機」につながりやすい。また、主要生産国であるカタールのLNG施設がイランからの攻撃により操業をすでに停止しているため、仮に戦争が早期終結してホルムズ海峡封鎖が解除されても、供給制約緩和までに相応の時間を要する。
深刻な「ハイブリッド型」
過去の原油価格の急騰を振り返ると、その要因は次の2点に大別できる。
第一に、地政学的リスクに伴う供給ショックである。1973年の第1次オイルショックでは、第4次中東戦争(イスラエル対アラブ諸国)の勃発を受けて、アラブ産油国が減産と米国などイスラエル寄りの国への石油禁輸を行い、原油価格を大幅に引き上げた。
2010年代前半には、チュニジアやエジプト、リビアなどで反政府デモが生じ、当時の政権が倒れる「アラブの春」を背景に、北アフリカの石油供給減少が意識され、原油価格が高止まりした。22年には、ロシアのウクライナ侵攻を受けて西側諸国がロシア産石油の調達回避の動きを強め、原油価格が上昇した。
第二に、投機的な思惑の強まりである。前述の供給ショックの際にも、市場参加者の投機的な取引が価格高騰を助長したほか、08年のリーマン・ショック直前期には、サブプライムローン(信用力の低い個人向けローン)問題が深刻化する中、安全志向を強めた投機マネーが証券化市場などから原油市場に流入し、価格が急騰した。
今回の局面は、こうした過去の事例が複合する「ハイブリッド型」であり、より深刻な状況にある。中東各国が減産を行い、中東産石油の輸送が制約されているという点は、第1次オイルショックと同じ構図である。さらに、当時はアラブ諸国支持の態度を表明した欧州や日本に対する禁輸は行われなかったため、今回の方が調達難に直面する国・地域が多い。
また、投機筋による価格上昇リスクも一段と強まっている。米商品先物取引委員会によると、原油市場の取引に占める投機筋のシェアは、08年に比べて増加している。アラブの春やロシアによるウクライナ侵攻時の懸念は北アフリカやロシアからの供給減少にとどまったが、今回はそれらよりも大規模な中東全体の供給減が懸念され、これが投機的な動きを強めている。
今回の軍事衝突が早期停戦に至らない場合、資源高や供給不足が長期化し、世界全体でインフレ圧力と景気後退圧力が強まるスタグフレーションが生じるリスクがある。その影響は、オイルショックなどの過去の事例に比べても深刻になる可能性に注意が必要だ。
(栂野裕貴〈とがの・ゆうき〉日本総合研究所調査部研究員)
週刊エコノミスト2026年4月14・21日合併号掲載
世界経済入門 Q2 原油・LNGの今後は?=栂野裕貴











