経済・企業 2026年の経営者

「異能の総合商社」で「次元上昇」を――今井斗志光・豊田通商社長

Photo 武市 公孝:東京都港区の東京本社で
Photo 武市 公孝:東京都港区の東京本社で

今井斗志光〈いまい・としみつ〉豊田通商社長
 1965年生まれ。愛知県出身。88年早稲田大学商学部卒業後、同年豊田通商に入社。25歳でアフリカ・マダガスカルの事務所長に就任以降、アフリカ事業に携わる。2018年トヨタ自動車常務役員アフリカ本部長、22年豊田通商副社長などを経て25年4月から現職。60歳。

  Interviewer 清水憲司(本誌編集長)

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── 社長就任から1年経過しました。キャッチフレーズは「異能の総合商社」です。手応えは?

今井 前社長の貸谷伊知郎副会長は、全ての分野をまんべんなくこなす「オール3」の商社にはならないという意味で「『なんちゃって総合商社』にはならない」と言っていました。私もその路線を継承し、苦手科目はあっても得意科目では追随を許さない「異能の総合商社」をキャッチフレーズにしました。もう一つのキーワードは「次元上昇」です。ビジネスを過去の延長線ではなく、違う次元に引き上げることを目指します。

── そのターゲットは?

今井 「成長投資」「資本政策」「人財・組織」「サステナビリティー経営」──の四つで次元上昇を目指します。成長投資ではアフリカ事業や資源循環などが実績を上げています。資本政策では株主還元などを積極的に実施し、株価は大きく上がりました。人財・組織でも成果が出ています。人が持って生まれた能力はあまり差がありません。肝心なのはその人の能力が覚醒しているかどうかです。DNAが覚醒し、当社の方向性に共鳴して目標のために全力を尽くす人を増やす取り組みを続けています。

── アフリカ事業の展望は?

今井 非常に好調です。当社は長年にわたり現地の経済発展に携わってきました。現在はモビリティー(自動車販売など)、グリーンインフラ(再生可能エネルギーなど)、ヘルスケア(医薬品の製造・卸売り・小売りなど)、コンシューマー(日用品の輸入・製造など)の4事業をアフリカ54カ国で展開し、社員約2万3000人が関わっています。アフリカの人口は現在15億人ですが2050年には25億人規模になる見込みです。経済成長の機会を積極的に捉え、その果実を収穫していきます。

 アフリカ大陸や南米、インドなどはかつては一つの巨大大陸で、「ゴンドワナ大陸」と呼ばれます。ゴンドワナを起源とする経済圏で戦略的にビジネス展開し、さらなる次元上昇を狙う方針です。

── アフリカでのビジネスで配慮する点は?

今井 日本企業の中には、アフリカは「遠い、危ない、もうからない」の三重苦があると言われがちですが、人口が将来には倍になり経済成長も見込まれるエリアはアフリカだけです。リスクに対しては分散が重要です。物流網を多国間展開したり、為替リスクには普段からバランスシートを整えておいたりするなどリスクを吸収する手立てが重要です。

── アフリカでのM&A(企業の合併・買収)も活発です。

今井 アフリカで事業を展開するフランス商社「セーファーオー」の買収(12年)など大型案件をこなしてきました。25年はケニアの大手薬局チェーンを買収しました。こうした買収を通じてアフリカを熟知する人材を取り込んできました。一方でアフリカは最後のブルーオーシャン(未開拓市場)です。市場獲得に向け、中国勢との競争も激しくなっています。

── 再生可能エネルギーに取り組んでいますが、トランプ米政権は再生エネには消極的です。

今井 再生エネに逆風にみえるのは米国だけです。人工知能(AI)などの普及で電力需要が世界的に拡大する中、化石燃料だけでは間に合いません。それを補うのは再生エネ以外にありません。

アフリカの成長に貢献

── アフリカの電力事情は?

今井 人口約15億人のうち約6億人が電気にアクセスできず、経済発展の制約になっています。30年までに3億人に電力を提供する世界銀行などのプロジェクト「ミッション300」に、当社も参加しています。「With Africa for Africa」の理念の下、現地に深く根付きながらアフリカの人々と共に成長していくという長期的視野で、ビジネスに取り組んでいます。

── サーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みは?

今井 当社は「地球を掘ることが全てではない」と考え、資源のリサイクル事業や再生エネ事業に力を入れています。25年には北米の大手リサイクル企業ラディウス社を完全子会社化しました。同年には韓国のLGグループと北米でのバッテリーリサイクル事業の合弁会社設立を発表しました。バッテリーのリサイクル技術は完全に確立されていません。日韓共同で地球を掘らずに資源をリサイクルさせる取り組みを加速します。

── トヨタグループ内では持ち合い株の見直しが進みました。

今井 グループ内では各社が相互に株式を保有し合う複雑な構造でしたが、分かりやすい資本関係に再編しました。社内には「本籍地・トヨタグループ、現住所・商社」という表現があるように、私たちは「トヨタグループ」という輪と「商社」という輪が重なる場所に存在しています。両方の強みを兼ね備えた「異能の総合商社」として事業を展開していきます。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 南アフリカ勤務が長く、夜は現地社員と太鼓を一緒にたたいて踊るなど地元になじんでいました。自分のメンタリティーの半分はアフリカ人です。アニメ映画「ライオン・キング」で有名になったスワヒリ語の「ハクナ・マタタ」(どうにかなる)の精神で乗り切りました。

Q 「好きな本」は

A 北方謙三さんの『水滸伝』です。

Q 休日の過ごし方は

A 旅行や自転車レースなど何かしら移動しています。ジョギングも好きです。


事業内容:物品の国内取引、輸出入取引、外国間取引など

本社所在地:名古屋市

設立:1948年7月

資本金:649億円

従業員数:6万9111人(2025年3月末、連結)

業績(25年3月期、連結)

 収益:10兆3095億円

 営業利益:4971億円


週刊エコノミスト2026年5月5・12日合併号掲載

編集長インタビュー 今井斗志光 豊田通商社長

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