インタビュー

「君のクイズ」ができるまで 小説家・小川哲×クイズノック田村正資

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構成・吉田大助
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 そのクイズ番組の優勝者は、なぜ決勝の最終問題が1文字も読まれないうちに正解できたのか? 敗れた主人公がその真相を追う--。競技クイズを題材にした、直木賞作家・小川哲(さとし)のベストセラー小説「君のクイズ」。このたび実写映画化され、15日から公開される。小川は執筆にあたり、クイズ王こと伊沢拓司が創設した知的エンタメ集団「QuizKnock」に関わり、哲学研究者としても活動している田村正資(ただし)に話を聞いたことが決定的な刺激になったという。小説の成立秘話や映画の見どころを、2人が語り合った。=敬称略

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2人の「クイズ人」に取材

小川 「君のクイズ」は、田村くんと、今は同じくQuizKnockの運営会社にいる徳久倫康(とくひさ・のりやす)さん(注1)の2人に取材したからこそ、いいバランスになったと思います。

 徳久さんはクイズプレーヤーとして現役で、かつ日本トップレベル。クイズの技術的な面や作問に関しては、徳久くん以上に詳しい人はいないと思う。ただ、彼はクイズマシンなので(笑)、あまりエモーショナルなエピソードは持っていない。反対に、田村くんはその部分をたくさん語ってくれました。

 田村くんから聞いた話で一番印象に残っているのは、「今まで一番うれしかったクイズは何?」って質問した時。「ドラえもん」のクイズの話をしてくれましたよね。

田村 「ザ・ドラえもんズ」という「ドラえもん」のスピンオフに出てくる、ひみつ道具の「親友テレカ」ですね。ある時、そのクイズが出題されて、僕以外はまず誰も分からないであろうタイミングで、ボタンを押して解答することができた。僕は小さい頃から「ドラえもん」が好きで、ビデオテープが擦り切れるまで何度も見てきましたが、それがこの正解につながったと気づいた時、ものすごくうれしかったんです。

小川 田村くんがテレビに出まくっていた頃の話もいっぱい聞かせてもらいました。

 当時のクイズ番組は、新しいスターを作ろうと躍起になっていた。全国高等学校クイズ選手権(注2)で優勝した「さわやか開成生」の田村くんは、良くも悪くもその席に座らされてしまった。

田村 番組で「天才現る!」みたいな演出をされて、僕がクイズを解くために実際にやったり考えたりしていることと、メディアに映っている自分とのギャップに戸惑いました。モヤモヤが強まっていくうち、クイズプレーヤーとしての活動もやめてしまいました。

小川 そこで、田村くんみたいに違和感を抱いてもういいやってなる人もいる一方で、スターの席を手放さない人もいる。「君のクイズ」の登場人物で言うと、本庄は席を絶対に譲らない人です。天才性とかスター性のあるクイズプレーヤーとして、自分で自分を演出していた面がある。それに対して主人公の三島は、メディアを通して自分がどう見えるかはどうでもよく、とにかく強くありたいと願っている。全てのクイズプレーヤーは、本庄と三島、2人のキャラクターを心の中に持っていると思うんです。

冒頭の「ゼロ文字正答」の仕掛け

小川 原稿ができあがった後、田村くんと徳久くんに読んでもらい感想を聞きました。「クイズ的にはここはこうした方がいい」というアドバイスはすごく役立たせてもらったんですが、小説そのものへの感想は、正直あてにならなかったですね。2人とも「クイズのことが小説になっているだけでうれしいです!」みたいな(笑)。

田村 だって、クイズって題材としてはニッチじゃないですか。

小川 確かに。

 早押しクイズにはそれこそスポーツのような競技性があるし、問題文も答えも文章なので小説と相性がいい。題材選びには自信があったんですが、読んでもらうには相当工夫がいるなと思いました。小説が好きな人は、早押しクイズにあまり興味がないだろうなと。

 小説って、正解と不正解がはっきりしていないものを表現することが多いんですよね。そういうものが好きな人たちにとっては、クイズは苦手だと思うかもしれない。正直、最初はビビりまくっていました(笑)。

 だから冒頭で、「ゼロ文字正答」という仕掛けを出すことにしたんです。クイズ番組の最終問題で、問題が1文字も読まれていないのに、主人公の対戦相手は早押しボタンを押して、正解することができたのはなぜか。クイズに興味がない人にも興味を持ってもらえるような、わかりやすいフックを作ることにしました。

田村 「ゼロ文字正答」がなぜ可能となったのかという謎の答えは、クイズをやっていてテレビにも出たことある身としては、ものすごくリアルだなと思いました。

小川 書き始めた当初は、僕の中にも答えがなかった。その答えを知りたいと思いながら書いていったから、謎を解こうとする三島に僕自身が感情移入できたし、驚いたり納得したりすることもできた。それが、この小説にとっては良かった。

田村 クイズって問題ごとに唯一の正解があるものなんですが、「なぜクイズをするのか?」という問いには、唯一の正解がないんですよね。「君のクイズ」というタイトルに表れていると思うんですが、その答えはクイズプレーヤーによって違うんだということが、本庄や三島やそれ以外のキャラクターたちの姿を通して描かれていた。クイズプレーヤーであればみんな心のどこかに抱えている問いから、魅力的な物語が生まれたことに感動しました。

プレーヤー視点から見るクイズとは

小川 門外漢からすると、競技クイズってテレビ画面の向こうやステージの上で起こっていることを、客席側から眺めるものだと思うんです。そうではなくて、この作品ではステージ側からカメラを客席に向ける。つまり、「プレーヤー視点から競技クイズを見せる」ことを明確に意識していました。例えば音楽やお笑いもそうですが、特定のジャンルが世間に広まっていくうえでは、ステージ側から描くフィクションの存在がすごく重要なんじゃないかなと常々思っているんです。ステージ側のやり方や事情を詳しく知ったり、ステージ側の人間に共感したり、思い入れを持ったりすることで、ジャンル全体の理解が深まり、ファンも増えていく。それが今回できたのは、一線級のクイズプレーヤーとして活動してきた2人に話を聞くことができたからなんです。

田村 映画化によって、作品世界に入って競技クイズに興味を持ってくださる人もたくさん出てくるのかなと期待しています。

小川 映画版の方が、クイズプレーヤーの生きてきた時間がより強く演出されている。

田村 あるクイズに正解することが、その人にとってどれだけうれしいかは、その人にしかわからない。その人の人生の何が、その人を正解に導いたり誤らせたりしたのかが客観的にはわからないのが、クイズの難しいところというか、クイズにのめり込んだことがない人には伝えづらい部分。それを面白くしたのが、「君のクイズ」だと思っています。

小川 ぜひ多くの人に、実際にクイズをやってみてほしいなと思いますね。クイズプレーヤーの数が増えれば、僕の作品ももっと読んでもらえるかもしれないし(笑)。

(注1)1988年生まれ。競技クイズの強豪プレーヤー。著書に「クイズの戦後史」。

(注2)日本テレビ主催で毎年開催され、放送されているクイズ大会・番組。

     ◇…

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