「NHKから国民を守る党」の立花孝志被告人が、逮捕・勾留されてから5月で半年を迎えます。
立花被告人は、亡くなった元兵庫県議の竹内英明氏に対する名誉毀損の疑いで、2025年11月9日に逮捕され、その後勾留が続いています。
立花被告人を巡っては、この他にも刑事、民事の裁判が進行していますが、名誉毀損の容疑でこのように長期間勾留されていることについて、ネットでは「異常」「まだ勾留されてるのやばいな」「変な話。まさに人質司法」などと疑問の声も上がっています。こうしたケースはおかしなことなのか、簡単に解説します。
●立花氏の勾留期間は、日本の刑事実務では「異例」とはいえない
身柄拘束の長期化は、立花氏に限ったことではなく、刑事事件の実務では、特に珍しい事例ではありません。
刑事事件では、逮捕後に起訴されると「被告人勾留」に切り替わります。この被告人勾留は、判決まで続く可能性があります。
●法律上は「原則として保釈」のはずだが‥?
刑事訴訟法89条は「保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない」と定めています。
つまり、請求があった場合には「例外的に保釈を認める」のではなく、「原則として保釈を認めなければならない」という建て付けです。これを「権利保釈」といいます。
なお、権利保釈が認められなくても、裁判所が裁量で保釈を認めることもできます。(刑訴法90条。「裁量保釈」といいます。)
権利保釈の「除外事由」(保釈をしない事情)は以下の6つに限定されています。
1)死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑にあたる罪
2)前に死刑・無期・長期10年を超える拘禁刑にあたる罪で有罪宣告を受けたことがある
3)常習として長期3年以上の拘禁刑にあたる罪を犯した
4)罪証隠滅(証拠隠滅)のおそれ
5)被害者や証人などを加害・畏怖させるおそれ
6)氏名または住居が不明
立花氏のケースであれば、権利保釈が認められない根拠は、4)5)に絞られそうです。
●「罪証隠滅のおそれ」は抽象的な疑いでは足りない
4)の「罪証隠滅のおそれ」(89条4号)について、本来であれば、「おそれ」は抽象的なものでは足りず、現実的・具体的なおそれがある場合でなければ保釈が認められるはずです。
裁判例でも、「被告人が公訴事実を否認したというだけで、他に資料がない限り罪証隠滅のおそれがあるとは言えない」としたもの(仙台高裁昭和29年(1954年)3月22日決定)や、「接触禁止の条件を付ければ罪証隠滅の具体的危険は乏しい」として保釈を認めたもの(東京地裁平成22年(2010年)6月22日決定)があります。
5)の被害者などの加害・畏怖のおそれについても、同様に保釈を認めないというのであれば、具体的なおそれが求められるはずです。
●「逃亡のおそれ」は、条文上、保釈を拒む理由にならない
89条の6つの除外事由には「逃亡のおそれ」が入っていません。
一方で、勾留できる場合を定めた刑訴法60条には「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と書かれています。
つまり「最初に勾留するときは逃亡のおそれを理由にできるが、起訴後に保釈を請求されたら、逃亡のおそれを理由に断れない」ことになります。
これは、保釈という制度が「保釈保証金」を預けて身柄を解放するものであることによるといわれます。
保釈に際しては、「被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額」の保釈保証金を定めなければなりません(刑訴法93条)。
つまり、逃亡のリスクはお金で担保するというのが制度の発想です。
「執行猶予中で実刑が見込まれる」ことが保釈拒否の根拠として使われることがあります。
実刑が見込まれるから身柄解放されたら証拠を隠滅するおそれがある、というのでは、あまりにも抽象的なおそれにすぎません。
実質的には、被告人が実刑になるのを恐れて逃亡するリスクを理由として保釈を認めない運用ではないかと思います。
本来であれば、そのリスクも保釈金の額を上乗せすることで対応すべき問題であって、保釈そのものを拒む理由にはならないはずです。
●「人質司法」と呼ばれる問題
長年にわたり、多くの専門家が、抽象的な罪証隠滅のおそれで身柄拘束を続ける運用が、「自白しなければ保釈されない」という構図を作り出していると批判してきました。
保釈率は1960年代には50%前後だったものが、1990年代には10%台にまで落ち込みました。裁判員制度(2009年)以降は改善傾向にあり、令和5年(2023年)には31.9%まで回復しています(法務省「令和6年版犯罪白書」)。
しかし、条文が「原則として許さなければならない」としている制度の実態としては、なお低い水準だと思います。
ここで問われているのは人質司法という制度的問題です。立花氏の言動に対する賛否とは関係がありません。
身柄拘束を続けなくても裁判ができるのであれば、身柄拘束を続けるべきではないと考えます。
抽象的な「おそれ」を理由として長期の身柄拘束が続く運用は、問い直されるべきだと思います。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
(参考資料) 「大コンメンタール刑事訴訟法 第3版 第2巻」(青林書院)
「新・刑事弁護マニュアル」(第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編著)
「2016年改正刑事訴訟法・通信傍受法条文解析」(河津博史ほか/立花書房)
「判例学習・刑事訴訟法〔第3版〕」(三井誠ほか/有斐閣)
「刑事裁判は生きている 刑事事実認定の現在地」(門野博/法律文化社)
「令和6年版犯罪白書」(法務省)