福島原発事故15年
見えてきた正体と課題
2011年3月11日に起きた福島第1原子力発電所の事故から15年になる。廃炉作業は最大の難関であるデブリ(溶融燃料)の取り出し作業に入ろうとしている。過去に例のないメルトダウン(炉心融解)した原子炉からのデブリ取り出しとはどういうものになるのか。
核燃料の融解でデブリ発生
一部は圧力容器外に
原子力発電はウラン燃料の核分裂で発生する熱を利用し、その熱で水蒸気を作ってタービンを回す。核分裂は連鎖的に発生するため膨大な熱が発生する。水で燃料を浸し、循環させて熱を回収すると共に、核分裂を抑える役割も果たす。
東日本大震災では津波により電源が喪失し、燃料を冷やす機能を失った。水位が下がり、燃料が露出した。2号機では海水を注入して冷却を目指したが、炉心部内が1900度以上になったことで燃料の溶融が進行した。
高温の溶融物は下にある鉄骨などの部材を巻き込み、一部は原子炉圧力容器を破損して格納容器の底に溶け出した。
その後、温度が1350度ほどに低下してデブリとして固まった。1号機と3号機は海水注入のタイミングが違うため、デブリの成分なども異なるとみられている。
進む解析、ウラン以外も混入
構造物や海水

東電は2024年11月に2号機で第1回目のデブリ取り出しに成功した。約0.7グラムを採取した。25年4月に実施された2回目の試験取り出しでは約0.2グラムが採取された。現在は詳細な成分解析が実施されている。
成分分析の結果、核燃料の成分であるウランや、プルトニウムの核分裂によって生じるアメリシウムなど放射性物質に加え、核燃料を覆う管に使うジルコニウムや原発の構造材に含まれる鉄やニッケルなどが含まれていた。 また冷却に使われた海水成分も入っていた。デブリが溶け出して周囲の構造物を巻き込んだことが証明された。
デブリの分析は取り出し方法の決定に役立つが、デブリは場所によって性状が大きく異なるとみられる。デブリのさらなる採取と分析が必要だ。
2号機の燃料デブリの成分
燃料由来

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U ウラン
燃料。サンプルの重量で最も多く含有
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Eu ユーロピウム
核燃料の制御棒材料
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Am アメリシウム
燃料の核分裂でできた物質
構造材由来

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Zr ジルコニウム
燃料被覆管 (核燃料を密封する金属チューブ)など
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Fe 鉄
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Cr クロム
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Ni ニッケル
海水由来

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Ca カルシウム
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Mg マグネシウム
海水(冷却水)、反応生成物など
総重量880トン
取り出し済みわずか1グラム
デブリは1~3号機に合わせて約880トンが残っている。2号機は圧力容器内にとどまるデブリも多いが、1号機と3号機では多くのデブリが格納容器へと溶け出している。また1、3号機では試験的な取り出しの着手もできていない段階だ。

残るデブリ 約279トン

残るデブリ 約237トン
1グラム程度取り出し済み

残るデブリ 約364トン
2号機の試験取り出し
次回はロボットアーム
2024年から始まった試験取り出しでは、「釣りざお方式」が使われた。26年度からはロボットアームによる試験取り出しが始まる。釣りざお方式よりも多くのデブリを取り出せるものの、カメラなどに不具合が出たため遅れている。
廃炉にはデブリの本格的な取り出しを始めなければいけない。その方法の詳細は決まっていない。3号機ではデブリに水をかけ流しながら回収する「気中工法」と、充塡剤で固めて削り取る「充塡固化工法」を組み合わせた手法を使うことを25年に決めた。気中工法とは格納容器内を水で満杯にせず、水をかけ流しながら圧力容器内に残ったデブリを突き崩して落として回収する手法だ。ただ本格的にデブリを取り出すのは37年度以降になる予定だ。

取り出し方法など未定

2026年度中に試験取り出し
2037年度以降に本格取り出し
高い放射線、再臨界の危険性…
取り出しに課題山積み
デブリ取り出しには課題が多い。試験取り出しの段階で遅れが発生している。原子炉内部につながる貫通部をふさぐ大量の堆積物によってロボットアームを入れることができなかったことなどが要因だ。
またロボットアームに取り付けるカメラも、高い放射線の影響で故障するトラブルが発生した。放射線の影響で基板が帯電してしまい、光を電気に変換するイメージセンサーが破損した。過剰な帯電はイメージセンサー以外にも複数の基板を破損する可能性があり、放射線に耐えうる専用カメラが必要になる。
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1
原子炉格納容器内は非常に高線量で、人が入れない
カメラが中性子で故障するなど、デブリ回収装置が放射線の影響を受ける
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2
建屋内は線量が高く、人による長時間の作業は難しい
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3
デブリが再臨界する危険性がある
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4
汚染された廃棄物や装置、回収したデブリをどのように移動・保管するか決まっていない
2051年の廃炉完了目標
道筋はいまだ見えず
国や東電は2041〜51年に廃炉を完了する目標をかかげる。これは一般の原発の廃炉作業にかかる30〜40年という期間と同じ長さだ。
原子力損害賠償・廃炉等支援機構は「気中工法」と「固化工法」の2案の組み合わせを検討する。1グラム程度しか取り出せていない現状において、デブリを取り出して廃炉を完了させる実現可能性は未知数だ。道筋はまだ見えてこない。
福島第1での燃料デブリ取り出しの動き
| 2011年3月 | 東日本大震災が発生、福島第1原発で炉心溶融事故が発生 |
| 18年1月 | 2号機でデブリとみられる堆積物を撮影 |
| 20〜24年 | デブリの試験取り出しが3回延期される |
| 24年9月 | 2号機で燃料デブリ取り出しに着手 |
| 24年11月 | 1回目のデブリ取り出しを完了 |
| 25年4月 | 2回目のデブリ取り出しを完了 |
| 26年度 | ロボットアームによる試験取り出しを実施 |
| 27年 | 各号機で本格取り出しの方法の方向性が決まる |
| 37年度以降 | 3号機での燃料デブリの本格取り出しに着手 |
| 51年まで | 国と東電の掲げる廃炉完了の目標時期 |
前例のない廃炉
丁寧な説明を
事故炉の廃炉は前例がない。デブリを取り出した唯一の事例が、1979年に炉心溶融の事故が起きた米国のスリーマイル島原発2号機だ。
福島第1のデブリを取り出す難度はより高い。スリーマイル島原発ではデブリは原子炉のある圧力容器内にとどまった。福島の場合は形状や固さもスリーマイル島原発より複雑になっている。
事故後15年となった今、国や東電には改めて丁寧な説明をすることが求められる。
イラストや表は東電の資料を基に作成。イラストはイメージ
