インターネットイニシアティブ(IIJ)と日本経済新聞社は2026年3月18日、AICJ中学・高等学校(広島市)で、全国6ヵ所目となる共同授業を実施しました。今回はIIJが監修したゲームを使った授業で、リアルやオンラインでつないだ約700人の生徒が参加。サイバー攻撃の恐ろしさや、原因を突き止め防御するむずかしさを現場感覚で学びました。日本のインターネット先駆者であるIIJが日々担っている「サイバーセキュリティー対策」の重要さを肌身で学んだ1日をルポ形式でお届けします。

部活のSNSに侵入者がいる?
春休みを目前に控えた3月中旬、AICJ中学・高校では中学1一年生から高校2年生までの約700人が21の教室に分かれ一斉に特別授業を受けることになった。午後1時過ぎ、5限目の授業の開始数分前になると生徒がそれぞれの教室に戻り、5~6名の班に分かれて席に着いた。チャイムが鳴り終わると、授業のモデレーターを務める今井善太郎さんが、元気な声でこう呼びかけた。今井さんは今回のゲームを開発した学生ベンチャー、Classroom Adventureの代表取締役だ。
「さあ授業を始めよう。今日は皆さんに“脱出ゲーム”をやってもらいまーす」
教室騒然のスタート
教室は一気にざわつく。「脱出ゲーム? サイバーセキュリティーの授業じゃないの?」。いつもの座学をと想像していた生徒たちにとっては、かなり意外な展開。状況がのみ込めないまま、モデレーターに促される通りに、教室前方のスクリーンに映し出されたゲームアプリのQRコードを各々のパソコンで読み取った。

「さあ、スクリーンにゲーム最初のアニメが流れるから、みんなで見よう」。軽快な音楽とともに始まったゲームの舞台は、とある高校のサッカー部。男子部員「ダイチ」と「ミナミ」の2人のやり取りを聞くと、どうやら部活のSNSアカウントがサイバー攻撃を受けて乗っ取られてしまったようだ。修復するにはまず、パスワードを入力して状況を確認したいが、パスワードを唯一知るマネジャーは連絡が取れないという。
物語と連動する進行
「どうしよう……」「2人で何とかするしかないな……」。2人の会話がどんどん深刻になるとともに、教室の雰囲気も重たくなっていった。アニメが終わり、「みんな、自分のパソコンを見て」とのモデレーターの呼びかけでパソコンを確認すると、さっそくゲームがスタートしていた。

「なにこれ?」「私たちが何とかするんだ!」。受け身の座学ではない授業だと少しずつ理解し始める生徒たち。ダイチらのサッカー部のタブレットの画面を見ると「LINE」を模した対話アプリの画面が開かれていて、動画で見た2人の会話が続いている。とにかく、やり取りからゲームの進め方を読み取るしかないようだ。
甘いパスワードは即突破
モデレーターは教室を回りながら進捗を確認し、タイムリーにヒントを送ってくれる。「わからないことがあったらダイチの言葉をよく考えて」「画面にあるアプリは全部開けるよ。そこもよく見てね」。生徒たちは戸惑いながらも徐々にゲームの世界に引き込まれていった。

開始から5分。「何だ、こんな簡単なパスワードにしているから乗っ取られるんだよ」――。少ないヒントの中から自力でパスワードを発見する生徒が出始めた。部活のタブレットには対話アプリのほかに検索サイトやニュースサイトなどのアイコンもある。どうやら、そこにヒントが隠されていたようだ。数分後には全員が第一関門を突破。部活のSNSの中にある「犯人」と思われる人物の書き込みを消去し、パスワードも変更した。
他人のアカウントに踏み込む怖さ
もちろん他人が設定したパスワードを解読し、勝手に書き換えることは許されない。ゲームはその点をしっかり説明した上で、サイバー攻撃を疑似体験し、事前の予防策や事後の対処法を考えてもらう設定になっている。さすがのデジタルネーティブ世代。数分後には全生徒がパスワードの変更までたどり着いた。ちなみに還暦間近の筆者は、1時間かけて何もできずギブアップした……。

この授業でまず覚えてほしいことはパスワードの設定の方法が、サイバーセキュリティーにとって非常に重要だということだ。ゲーム後の解説では「同じパスワードを使いまわさないこと」「単純な英数字の羅列にはしないこと」「複雑さよりも、長くすることが効果的であること」の3つのポイントを強調した。
常識が通じないパスワード対策の現実
ゲームを監修したIIJによると、「現在はパスワード解読の専用プログラムを活用する犯罪が横行している。1秒間に何百通りものパスワードを入力できるので、複雑な組み合わせ以上に、より多くの英数字などを使う方が解読しにくい」と指摘する。IIJ広報部の技術統括部長、堂前清隆さんいわく「攻撃者の気持ちになって考えることが大切」。犯罪に使われる技術動向などを学んでいれば、たとえ犯罪が巧妙化していっても、しっかり防御できるようになる。
実際にゲーム授業を体験した生徒は日頃どのようにしているのだろうか。ゲーム授業に参加した高校2年生(インタビュー当時)の大森悠生さん(17)は「まさかゲームで授業とは思っていなかったので、最初は戸惑いました。実際にマルウエアに感染した知り合いがいて、端末を見せてもらったことがあるので大変だとは理解していたのですが、ゲームとはいえ被害を実体験できたのは貴重」と感じたという。

緊張高まる教室
大森さんはパスワードの使いまわしは避けていたようだが、「今日の授業で犯人がプログラムを使って文字の組み合わせを片っ端から入力して割り出していると聞いて、もっと長いパスワードにしようと思いました」と話してくれた。
もちろん、ゲーム授業はまだ始まったばかり。パスワード解読は「脱出ゲーム」の入り口に過ぎない。最初は笑い声も聞こえていた教室だが、気が付けば生徒の言葉数はめっきり減った。「何か、設定が怖すぎるよね」と隣の仲間と肩寄せ合って、必死で考える女子生徒。「どうしたらいいんだ~」と頭をかきむしる男子生徒。疑似体験とはいえ、サイバー犯罪と対峙しているという設定が、生徒たちの集中力を高め、教室を緊張感で埋め尽くしていくのがわかる。
授業の続きは次回コラムで紹介する。サイバー犯罪の怖さと毅然と闘う生徒たちの結末はいかに……。
(続く)








