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【コラム】金子達仁

機能し始めた日本の“自動操縦システム”

[ 2026年3月31日 14:00 ]

<日本代表練習>後半、ゴールを決めた伊東(中央)(撮影・小海途 良幹)
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 南野がいない。久保も、遠藤も、冨安も、板倉もいない。4年前なら、絶望だった。1年前でも絶望だった。そんな状況で迎えた敵地でのスコットランド戦で、森保監督は三笘、鎌田、堂安、上田、伊東らをベンチに置いた。

 正直、相手から「ナメるな」とブチ切れられても仕方のない先発だったが、森保監督もぬかりはなかった。スコットランドで最も有名な日本人のひとり、前田の左腕に腕章を巻かせたのだ。我々はあなた方を軽視しているわけではない、という明確なメッセージ。これで、ハムデン・パークの怒りが日本に向けられることは避けられた。

 もっとも、仮に前田が主将でなかったとしても、グラスゴーのファンはすぐに気づいたことだろう。知らない選手ばかりだが、どうやら、この日本も強い。実際、試合前からの作戦だったのか、それとも肌感覚によるものだったのか、スコットランドは明らかに日本を格上の存在として遇してきた。基本的に、その傾向は最後まで変わらなかった。

 冷静に考えると、これってかなり凄いことである。

 アジアから来たチームに、それも有名どころをベンチに置いたチームに、ホームで押し込まれている。それを、世界で最初に国際試合をやった国の選手が、ファンが、激烈な反発を見せることなく受け入れていた。一昔前であれば、ファンが暴動を起こしていても不思議ではない内容と、そして結果だったというのに。

 しかも、日本側のベクトルは必ずしも勝利だけには向けられていなかった。いや、君が代を聞くたび涙する森保監督に勝たなくてもいい国際試合などあるはずもない。ただ、スタメンの構成といい、守備だけでなく攻撃面でもカギになっていた伊藤を前半で下げたことといい、結局はフィールドプレーヤー全員を交代させたことといい、勝利のみが求められるW杯本番では絶対にできないことを、この日の森保監督はやっていた。

 そのうえで、勝った。ほぼすべてのスタッツで相手を上回ったうえで、勝った。

 もちろん、紙一重の勝利だったことを忘れるつもりはない。鈴木彩の2つの好守がなければ、特に1本目の超絶セーブがなければ、試合はまた違ったものになっていただろう。

 ただ、わたしが何よりうれしかったのは、勝ったことよりも、鈴木彩の活躍よりも、自分たちのミスから許した決定機からリズムを失いかけた日本の選手たちが、前半のうちに流れを取り戻したことだった。

 4年前の日本は、前半と後半でジキルとハイドのような変貌を見せることがあった。切り替えのスイッチが押されたのは、ハーフタイムのロッカールームだった。残念ながら、カタールでの日本に、選手たちがフィールドの中で考えて試合を動かす“自動操縦システム”は搭載されていなかった。

 ところが、グループとしての経験値がほとんどなかったにもかかわらず、この日の日本は試合の中でやり方を変え、失いかけたリズムを再び手中に収めていた。田中と藤田のコンビは、試合開始直後と後半途中とでは別次元のユニットに成長していた。三笘が投入されてからは、突如として後藤が輝き始めた。ベンチからだけでなく、フィールド内部でもリズムを変えられるチームに、いまの日本はなりつつある。

 何より驚くべきは、このチームには、まだ伸びしろ、プラスアルファがたっぷり残されている、ということだ。掲げた夢は、必ずしも荒唐無稽とはいえない段階に突入した。(金子達仁=スポーツライター)

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