【最終回】若者よ! どうか死なないで!…今はつらくても、とにかく生き延びて

スクラップ機能は読者会員限定です
(記事を保存)

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

編集委員 山口博弥

 今から20年ほど前、私の妻は、うつ病を発症しました。

 精神科のクリニックでカウンセリングを受けても、処方された薬を飲んでも、症状はあまり改善されませんでした。

妻から届いた「今から死ぬ」メール

 ある日の昼過ぎ、私が会社で仕事をしていると、携帯電話に妻からメールが届きました。

  「今から死ぬ」

 「そんなこと言わないで! 死なないでほしい」。はっきりと覚えてはいませんが、私はそんなメールを返信し、その日の取材予定をキャンセル、所属していた医療情報部(現・医療部)のデスクに事情を話し、急いで電車に乗って帰路につきました。

 東京・大手町の職場から、当時住んでいた千葉県松戸市の家に着くまで、電車と徒歩で1時間ほど。まだ明るい午後の、ガランとすいた電車のシートに座りました。

 怖かった。すごく怖かった。前にも「死にたい」と言ったことはあるけど、今度は本気かもしれない。ほんとに死んだらどうしよう? 半分、泣きそうになったのを覚えています。でも、自分ではどうすることもできません。特定の信仰は持っていないけど、神様に祈るしかありませんでした。

取材のメモ帳に、その時を再現して書いてみました
取材のメモ帳に、その時を再現して書いてみました

 それでも、何かしないではいられない。私はビジネスバッグから取材のメモ帳を取りだし、ボールペンで「〇〇(注・妻の名前)は死なない!」と書きました。でも、すぐに上からペンでグジャグジャに消しました。「死」という文字自体に、不吉な感じを抱いたからです。そこで、メモ帳にこう書きなぐりました。

  「〇〇は生きる! 生きる! 生きる! 生きる! 生きる!」

 強く念じながら、何度も、何度も、ページをめくっては書き続けました。

 自宅に着き、急いで玄関のドアを開け、リビングへ入ると、幸い、妻はソファに横になって休んでいました。私は、心の底から (あん)() し、また泣きそうになりました。

 それから数日後、妻は都内の大学病院の精神科に1か月間入院し、うつ症状は治まりました。その後も年単位でいろいろなことがあり、精神状態に波はあったものの、次第にうつを発症する間隔が長くなり、症状も徐々に軽くなっていきました。

 そして今、50代になった妻は、うつ状態に陥ることはほとんどなく、毎日を元気に過ごしています。

 このコラムを書くにあたり、私が「あの時のことを書いていい?」と尋ねると、妻は「いいよ」と答え、こう言いました。「でも、私、あのころのことをあまり覚えてないんだよね」。あまりのつらさから、記憶障害が起きてしまう「解離性健忘」という状態だったのかもしれません。

1

2

3

スクラップ機能は読者会員限定です
(記事を保存)

使い方
速報ニュースを読む 「なるほど!医療」の最新記事一覧
注目ニュースランキングをみる
記事に関する報告
4779159 0 なるほど!医療 2023/11/28 10:00:00 2023/11/29 15:44:33 /media/2023/11/20231124-OYT8I50057-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

おすすめ特集・連載

読売新聞購読申し込みバナー
プリファードソース

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)