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『絶望の凶弾…安倍元首相銃撃事件 山上被告を追った1294日』読売新聞大阪本社取材班著(中央公論新社)

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「孤立と困窮」銃撃に飛躍

評・辻田真佐憲(近現代史研究者)

◇奈良支局員を含め、数十人の記者が携わった。主な取材メモと資料をとじたファイルは50冊を超えた。
◇奈良支局員を含め、数十人の記者が携わった。主な取材メモと資料をとじたファイルは50冊を超えた。

 山上徹也被告はなぜ、旧統一教会の関係者ではなく、安倍元首相を撃ったのか。両者に選挙協力などで関係性があったからだ。そう外野はもっともらしく説明する。だが、実行犯である山上被告の人生や裁判での証言などを踏まえて検証しなければ、その真相は見えてこない。

 本書は、読売新聞大阪本社取材班が、銃撃事件発生の直後から奈良地裁で一審判決が下されるまでを丹念に追いかけた 渾身こんしん のルポである。組織力を生かし、多くの記者を動員して関係先に当たり、ときに警察に先んじて情報を つか む。白熱する取材合戦の様子に、組織ジャーナリズムの力はいまだ健在だと舌を巻く。

 こうした取材から浮かび上がるのは、山上被告の社会的孤立と経済的困窮だ。旧統一教会による深刻な被害はあったものの、それが銃撃事件に直結したわけではない。山上被告は一般人と変わらない生活を営んでいた時期もあった。だが、やがて職を転々とし、孤立を深めるなかで、自分が思うように暮らせないのは旧統一教会のせいだと恨みを増幅させるようになった。

 その結果、銃の自作を思いつくが、当初の標的は旧統一教会の韓鶴子総裁だった。ところが、コロナ禍で来日が途絶えてしまう。無職となり借金も抱えていた山上被告は、このままでは実行する前に経済的に破綻すると考え、それまで強い憎悪を抱いていたわけではなかった安倍元首相に標的を きゅうきょ 変更することになった。

 以上の見立ては綿密な調査に裏打ちされており、きわめて説得力が高い。これを読むと、安倍元首相への銃撃はやはり飛躍だったと思わざるをえない。本書は旧統一教会の問題を指摘しつつ、山上被告への安易な同情論を戒めているが、評者もこの姿勢に強く同意する。

 山上事件は発生直後から、大きな社会的 喧騒けんそう を巻き起こした。だからこそ、時間を経たいま、あらためて冷静に検証される必要がある。そのための最適な一冊として本書を薦めたい。(2090円)

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読書委員プロフィル
辻田真佐憲( つじた・まさのり
 1984年生まれ。評論家、近現代史研究者。政治と文化芸術の関係を主なテーマにした著述、評論、インタビューなどを手がける。著書に『「あの戦争」は何だったのか』『「戦前」の正体』など。

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