シンガポール 開発独裁の60年 強い経済 アジアのハブに…バンコク支局 井戸田崇志
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シンガポールは2025年、建国60年を迎えた。「開発独裁」体制の下、アジアの金融・物流ハブ(拠点)の地位を確立し、世界有数の経済的に豊かな国になった。米中覇権争いの舞台の一つになってきた東南アジアでは異色の存在感を示すが、外国人材の「選別」など課題もある。
米中に物言い
11月19日に開かれた「ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラム」。開催地シンガポールのローレンス・ウォン首相は日本の高市首相の台湾有事を巡る国会答弁に中国が強く反発していることに関する見解を問われるとこう答えた。
「日本は中国との関係を安定させ事態を沈静化したいと考えている。中国も同じように考えることを願う」
ウォン氏は対立をエスカレートさせないよう中国に自制を求めると同時に、「シンガポールを含む東南アジア各国は安全保障面を含め、日本が地域でより大きな役割を果たすことを支持する」とも述べ、中国の強硬な姿勢と一線を画した。
米国に対しても遠慮がない。トランプ米政権が4月に「相互関税」の導入を発表すると、ウォン氏は「失望した」と批判。8月の独立記念集会の記念演説では「(グローバル化から)米国が後退し、多国間システムが弱体化した」と述べ、米政権が世界の不安定化を招いたことを指摘した。
東南アジア各国の首脳は米中の顔色をうかがい、奥歯にものが挟まったような発言が目立つ。そうした中にあって、ウォン氏の率直な物言いは異色といえる。
金融集積
こうした外交上の独自性を担保するのが、シンガポールの経済力の強さだ。

国際通貨基金(IMF)によると、2024年のシンガポールの1人あたり購買力平価国内総生産(GDP)は、15万908ドル(約2300万円)に上り、欧州のリヒテンシュタインに次ぐ世界2位、日米中を大きく引き離す=《1》=。伸びも著しく20年前の3倍、40年前の実に約11倍だ。
東京23区ほどの面積で、資源もないシンガポールが世界有数の経済的な豊かさを実現した背景には、「開発独裁」と呼ばれる独特の統治システムがある。
1965年の建国後、初代首相リー・クアンユー率いる人民行動党の事実上の一党独裁体制下、経済成長を最優先。港湾整備を進めてアジアの物流の結節点になると、関税をかける品目を最小限にし、外資企業の工場の誘致を進めた。
世界の投資マネーを呼び込むため、外資の資本規制は基本的に設けないなど、金融市場の発展にも注力した。配当金と資産売却益を非課税とし、相続税や贈与税もなくし、投資家や富裕層の移住先として魅力的な環境を作ると、顧客の獲得を狙う金融機関が競うように進出した。

その結果、世界の銀行や保険会社など1200社以上の金融機関が集積するアジアの金融センターとなった。国際決済銀行(BIS)の2025年の集計によると、シンガポールの1日あたり外国為替平均取引高は、英米に次ぐ世界3位の1兆4852億ドル(約231兆円)に上り、香港や日本を引き離す=《2》=。
外国人材「選別」
近年は、資金調達のしやすさを前面に打ち出し、スタートアップ(新興企業)の誘致に力を注ぐ。
政府は国全体でデジタル化を進めてビジネス機会の創出を図る国家戦略「スマートネーション構想」に基づき、企業の先端技術の社会実装を後押ししており、国内外のスタートアップ4500社が拠点を置く。
気がかりなのは、外国人材の「選別」ともいえる動きだ=《3》=。
政府は人工知能(AI)開発で主導権を握る思惑から、査証(ビザ)の発給要件を緩和し、海外から起業家やAI専門人材らの呼び込みを図っている。人手が必要な建設作業員や港湾労働者らは保証金の納付などの条件付きながら原則として受け入れている。
一方、一般の駐在員向けのビザの発給要件は逆に厳格化している。17年以降、基本月給の下限額を段階的に引き上げると同時に、企業の業績や現地法人におけるシンガポール人の雇用状況、申請者の学歴などを点数化して審査し、規定を満たさなければビザを発給しない。日本企業からは「一定の役職者でないと、駐在員を配置しづらい。外国人に来てほしくないのか」(電機大手)と戸惑う声も出る。


























