内海の島に再生の物語…佐柳島(さなぎじま)(香川県多度津町)
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穏やかな瀬戸内の海を眺めながら、千佳たちはゆっくりと海岸線を歩いた。――――藤岡陽子「海とジイ」(2018年刊)


岡山県と香川県の間に連なる
北の長崎港で船を下りた。一緒に下船した住民とおぼしき数人の乗船客が去ると、残暑厳しい港にいるのは猫ばかりだ。昭和20年代後半には1300人を超えていた島の人口も、今では50人足らず。島の東側を通り、二つの集落をつなぐ海沿いの道端でも、日陰で猫がくつろいでいる。

優しい波音に包まれるこの静かな島を、作家は傷つき挫折した人々が再生していく小説の舞台に選んだ。
作家の藤岡陽子さん(54)が小説を構想したのは、今から10年ほど前のことだ。仕事の取材で瀬戸大橋を渡り、橋から島々を眺めたとき、景観の美しさに驚くとともに、島々で人々はどんな思いを抱き、暮らしているのか興味を持った。調べると、佐柳島には「お参りすると

方言の誤りがないか見てもらおうと多度津港で声をかけた当時80代の島の女性から、島の歴史や暮らしについても話を聞いた。「島には島の常識やルールがあり、人生があるということを知って、狭い島にいるのに自分の中の感覚が広がっていく感じがした。そういう場所を舞台に『再び生まれる、再び生きる』物語を書きたいと思いました」

「海とジイ」に収録されている一編「
残念に思いながら、本浦地区にある突堤に出てみた。目の前に小さな島、右手に開催中の「瀬戸内国際芸術祭」の会場の一つ、高見島が見える。陽光にきらめく海面を眺めていたら、「ふわあ」と大きなあくびが出た。
藤岡陽子
(ふじおか・ようこ)
1971年、京都府生まれ。2009年、「いつまでも白い羽根」でデビュー。24年、「リラの花咲くけものみち」で吉川英治文学新人賞を受賞した。佐柳島と高見島を舞台にした「海とジイ」には、3人のおじいさん(ジイ)とその思いを受け取る人々を描いた3編が収録されている。
塩飽諸島の人々は、古くから造船技術や操船術にたけた「塩飽衆」として知られた。幕末に太平洋横断に成功した幕府の軍艦「咸臨丸」にも島出身者が乗船していた。
文・金巻有美
写真・安川純
「猫の島」廃校も再生

飲食店や自動販売機などがなかった
佐柳島は今、「猫の島」として知られている。多度津町によると、猫たちが島にいつ頃から、なぜすむようになったかは分からないが、「猫の島」と呼ばれるようになったのは、動物写真家の岩合光昭さんが猫を紹介するテレビ番組で取り上げたことなどがきっかけではないかという。以来、猫を目当てに訪れる観光客も増えている。
「ネコノシマホステル」を経営する村上淳一さん(51)は以前、大阪市内で古書店を営んでおり、妻の直子さん(54)は百貨店に勤めていた。淳一さんの父親が島出身だったが、淳一さんは大阪で生まれ育った。
2016年、淳一さんは約20年ぶり、直子さんは初めて島を訪れ、この木造校舎と出会った。その後、直子さんが広告を見かけて移住フェアに参加し、担当者と話したところ、トントン拍子に話が進んで、2人はそれまでの仕事をやめて島に移り住んだ。「島の生活とか、知らなすぎたのが逆によかったのかもしれません」と直子さんは笑う。

教室は客室に、職員室は宿泊客以外も利用できる喫茶スペースに生まれ変わった。黒板などはそのまま残され、学校だった頃の面影を色濃く残す。客室裏手の通路や庭では、猫たちが虫を追いかけたり、ひなたぼっこしたりと、思い思いに過ごしていた。
観光客が増える一方で住人が減った島は、変わっていかざるを得ないだろう。それでも、「島の空気感や時間の流れといった魅力を大切に残していきたい」と淳一さんと直子さん。これからも穏やかな島であってほしい。顔をすり寄せてくる島の猫たちをなでながら、強くそう願った。
●ルート JR岡山駅から多度津駅まで特急で約45分。多度津駅から徒歩約15分の多度津港からフェリーで佐柳島本浦港まで約50分、長崎港まで約1時間。
●問い合わせ たどつ汽船=(電)0877・32・2528、ネコノシマホステル=(電)0877・35・3505
[味]イチジクアイスにコーヒー

「ネコノシマホステル」内の「喫茶ネコノシマ」では、多度津―佐柳島航路を運航する汽船会社「三洋汽船」が自家
コーヒーはネコノシマホステルのために特別に焙煎してもらっているもので、佐柳島の穏やかな海をイメージして「苦味と酸味をバランスよくブレンドしたものです」と村上直子さん。コーヒー豆と、豆をひいた粉も販売している(いずれも100グラムで800円)。数量限定のオリジナルチキンカレー(1000円)も。独自にブレンドしたスパイスが利いたカレーは、島歩きの際のランチにおすすめだ。
ひとこと…観光公害の影
観光地で地元住民の生活が脅かされる「オーバーツーリズム(観光公害)」が問題になっている。佐柳島も「猫の島」として知られるようになってから多くの観光客が訪れるようになり、最近では島の子猫をこっそり連れ去る人もいるという。気軽に出かけた旅だったが、観光や過疎など様々なことを考えさせられた。


























