詩人が見損ねた梅…日野市(東京都)
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三月の末頃、少し時刻が遅過ぎるとは思ったが、百草園(もぐさえん)へぶらぶら行ってみた。――――西脇順三郎「随筆 春すぎて」(1940年)

〈なにか冬の恐怖を感じて、心が沈み健康の心配ばかりしていた〉
詩人の西脇順三郎は、暖かくなった3月の中頃から少しずつ散歩に出かけるようになった。昭和15年の随筆にそう書いている。
大正時代に渡英し、シュールレアリスム(超現実主義)を学んだ。帰国後はそれを文芸雑誌「詩と詩論」などを通して精力的に発表、多くの詩人や文学者に影響を与えていた。
ところが、日中戦争が泥沼化すると、その思想は当局による弾圧の対象になり始めていた。そんな時代背景が彼の心を暗くしていたのだろう。
目に見えない何かにおびえていた西脇が、気分転換に訪れたのが日野市の百草園だった。

自宅のある都心から電車に乗ればそう遠くもない。園の近くで樹木を写生したり、園内では子供らと遊んだりして日が暮れるまで過ごした。
日野の郷土史に詳しい芹川孝一さん(80)は「百草園を訪れた理由が随筆には書かれていないが、江戸名所図会にも紹介されており、若山牧水をはじめ多くの文人が訪れていたこともあるでしょう」と推測する。
同園は牧水が明治40年前後に何度か訪れ、恋人を同伴したこともある。牧水の恋は成就しなかったが、武蔵野の自然や恋愛を歌にしたことを西脇も知っていただろう。

2月下旬、記者は京王線の百草園駅を降り、現在は京王百草園と改称された庭園に向かった。徒歩10分とは聞いていたものの、園の入り口までは急な坂道を上らなければならず、途中で息が上がり、一休みしたほどだ。
同園管理センターの清水真二さん(54)は「昔の園内の配置が分からないのですが、西脇さんが子供と遊んだのは
梅の名所で約50種500本が植えられている。西脇は散り際の梅を見たが、記者が訪ねた時は紅梅、白梅ともに見頃を迎えていた。偉大な詩人が見損ねた風景を春告草の香りとともにゆっくり楽しんだ。
西脇順三郎
(にしわき・じゅんざぶろう)
1894~1982年。現在の新潟県小千谷市生まれ。詩人、英文学者。慶応大卒業後、英国に留学。帰国後は母校で英文学を教えながら戦前のシュールレアリスム運動の中心となった。著作に「超現実主義詩論」、詩集に「Ambarvalia」「旅人かへらず」など。国際的にも高い評価を受け、ノーベル文学賞候補に何度もなっている。1957年に詩集「第三の神話」で読売文学賞を受賞。
今回の言葉は、「野原をゆく」(講談社文芸文庫)所収の一編。
文・西條耕一
写真・安川純
土方の義兄 新選組支え
戊辰戦争では旧幕府方として活躍した新選組。そのルーツは日野市にある。同市石田の農家に生まれた土方歳三らが若いころ剣術の腕を磨いたのが、甲州街道沿いに建物が残る日野宿本陣だった。

郷土史家の芹川孝一さんは、日野新選組ガイドの会会長も務める。「穀倉地帯だった日野は幕府の直轄地で、剣術が盛んだった。名主だった佐藤彦五郎が本陣に天然理心流の道場を開設したのが後の新選組結成につながりました」と話す。本陣は参勤交代では大名の休憩場所となるが、普段は彦五郎の自宅だった。
土方の義兄に当たる彦五郎のもとへ同じ流派の近藤勇らも訪れる。その後、討幕の動きに対処するため幕府が志士を募ると、近藤らはそれに応じ、彦五郎も支援した。
芹川さんに本陣内を案内してもらった。都内の街道に残る唯一の本陣建築という。「近藤と土方の出会いがここだった。今は新選組の聖地として全国からファンが来られます」と芹川さんは目を細める。
彦五郎の子孫は今も本陣近くに住んでおり、佐藤彦五郎新選組資料館を運営する。

同館には、死を覚悟した土方の彦五郎宛て書状や近藤から譲り受けた短銃が展示されている。直系の子孫、佐藤福子館長(69)の夫で副館長の忠さん(70)は「小説やドラマでは隊士が中心に描かれるが、彦五郎は京都の土方らと手紙のやり取りも頻繁に行い、物心両面で支えていた。そんな彦五郎の存在を多くの人に知ってほしい」と話す。市内には新選組のふるさと歴史館や土方、井上源三郎の資料館もあり、見所は多い。
忠さんの話を聞いた後、同市の高幡不動尊へ。境内には土方の銅像だけでなく、土方、近藤を
戊辰戦争で近藤は刑死、土方は戦死している。彦五郎の無念さを思い浮かべながら、「ほろびの美学」に殉じた隊士を思い、手を合わせた。
●ルート 新宿駅から京王線で百草園駅まで35分。JR中央線の新宿―日野駅は特快で約30分。
●問い合わせ 京王百草園=(電)042・591・3478(入園料は中学生以上500円など、水曜定休)。新選組のふるさと歴史館、日野宿本陣=(電)042・583・5100(日野市ふるさと文化財課、各高校生以上200円など、月曜休館、共通券も)。
[味]搾りたてミルク ジェラートに

京王線の百草園駅から10分ほど川崎街道沿いに歩いた場所にあるジェラート=写真=の店が「アルティジャーノ・ジェラテリア」((電)042・599・2880)だ。日野市で酪農を営むモグサファームが直営している。
店長の大木由美子さん(59)は「搾りたての新鮮なミルクを使っており、濃厚な味わいになっています」と話す。定番の「しぼりたてミルク」や「ダブルチョコレート」のほか、季節の果物や野菜も取り入れており、常に十数種類を用意している。
しぼりたてミルクを口に含むと、味が濃く、牛乳の味がしっかりと感じられた。
コーン、カップともにシングル400円、ダブル600円。営業は午前11時~午後5時。水、木曜定休。
ひとこと…大きな存在感
佐藤彦五郎は今まで名前しか知らなかったが、今回の取材で存在感の大きさを知った。佐藤彦五郎新選組資料館((電)042・581・0370、入館料は高校生以上500円、小中学生300円)は原則毎月第1・3日曜開館だが、今月は15日が休館、22、29日は開館予定。ユーチューブ「子孫ちゃんねる」も興味深い。




























