【この人に聞きました】職人技が光る食品サンプルの世界へ

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大和サンプル製作所 代表 伊藤裕一さん

伊藤裕一さん
伊藤裕一さん

 ラーメン、すし、パフェ……ショーウィンドーを彩る食品サンプルの聖地、岐阜県・郡上八幡(郡上市)に伝わる話はおもしろい。

 明治の頃、幼い少年が ろう そくに火をともすと、溶けた蝋が水たまりに落ち、かれんな白い花に化けた。その時の驚きが食品サンプル会社の創業につながり、郡上おどりの城下町は職人が技を競い合う街になった。東京・北池袋に工房を構える大和サンプル製作所(豊島区上池袋)代表、伊藤裕一さん(72)の父、菊雄さんもこの地で腕を磨いた職人の一人だった。

 菊雄さんは戦後上京し、工房を開いた。5人家族が暮らす一間のアパートで、 石膏せっこう や寒天の型に蝋を流し、一日中サンプルと向き合う父の姿を幼い裕一さんは覚えている。高度成長時代、街の飲食店は増え、サンプルは飛ぶように売れた。裕一さんが22歳の時に工房に入ったのは、ひたむきな父の背中を見ていたからかもしれない。型取り、オーブン しょうせい 、着色、材料は蝋から合成樹脂に、型はシリコーンが主流になっても、職人の手作業は昔のままだ。「色出し7年。素材の微妙な色合いや質感を出すには経験が必要です」と言う。

 風向きが変わったのは20年ほど前だったろうか。経済の低迷、人口減少で個人商店が姿を消し、お得意さんも減っていった。悩んだ末に思いついたのが、食品サンプル作り体験だった。蝋をお湯に落とせば天ぷらの衣に変身し、イチゴやリンゴをシリコーンのクリームに盛り付ければ、世界に一つだけのパフェの出来上がりだ。リアルな造形、鮮やかな色彩、その魅力を再発見したのは、インバウンドの外国人観光客だった。

本物そっくりの食品サンプルを気軽に制作体験できる
本物そっくりの食品サンプルを気軽に制作体験できる

 出張イベントを含め、食品サンプル体験には年間2万人が訪れ、体験を楽しんでいる。2人の息子も工房に加わり、欧州やアジアの展示会に招かれるまでになった。一滴の蝋の花が年月を経て、アニメやゲームのような日本発のカルチャーとして世界に広まりつつある。それは現代のジャポニズムなのかも――。

 文・三沢明彦

この人に会いに行くには
 「カワイイ」と食品サンプルは若者や子どもたちの共感も得ている。イチゴやバナナ、ギョウザにピザ、さらには食べ尽くした骨付き肉にいたるまで、リアル過ぎるサンプルをあしらったキーホルダー、アクセサリーが工房に並んでいる。パンケーキの小物入れ、ミニカレーのスマホスタンド、握りずしのマグネットなどもお土産に人気という。 伊藤さんのサンプル製作体験ツアー はベルトラの「 日本を (ひも) とく旅 」で。

 (月刊「旅行読売」2026年4月号から)

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