竜王戦本戦で久保利明九段の「壁」突破した佐々木勇気八段、藤井聡太竜王との七番勝負を前に「まだ強くなれる」[指す将が行く]
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第37期竜王戦のランキング戦・本戦を勝ち抜き、藤井聡太竜王への挑戦を決めた佐々木勇気八段は8月5日に30歳となった。16歳でプロ入りし、14年を経てのタイトル初挑戦だ。2017年に藤井四段(当時)の30連勝を阻止し、「時の人」として竜王戦本戦に臨んだが、立ちはだかったのは久保利明九段だった。2020年の本戦でも久保九段に敗れた佐々木八段。今期は鬼門を突破し、竜王挑戦につなげた。(デジタル編集部・吉田祐也)

デビュー以来29連勝の藤井四段に土をつけ、一躍「話題の人」に
2017年の夏のこと。デビュー以来、負けなしで29連勝という新記録を打ち立てた藤井聡太四段(当時)が巻き起こした「藤井フィーバー」にのまれまいと、部屋の片隅で事前に対局を偵察していた棋士がいた。その様子から「座敷わらし」などと呼ばれたりもした佐々木勇気五段(当時)だ。竜王戦本戦の対局で2人は相まみえ、佐々木五段が快勝した。

将棋会館の特別対局室がはち切れるのではないかというほどの報道陣が押し寄せるなか、佐々木五段は藤井四段の30連勝を阻んだ。「あの独特な雰囲気に慣れていたことが大きかった」と語り、話題の人物となった佐々木五段は、竜王挑戦へ駆け上がるのか。そんな期待感もあったなか、本戦で、どっしりと待ち構えていたのは振り飛車を得意とする「さばきのアーティスト」久保利明王将(当時)だった。この対局の直前、佐々木五段は六段へと昇段していた。勢いか、熟練の技か。興味深い一戦となった。
竜王戦本戦では、2回にわたり「さばきのアーティスト」に屈す

久保王将の中飛車に、急戦で動いていった佐々木六段は△2三歩と打たれた第1図から激しく踏み込む。▲1三銀不成が若さあふれる突進だ。対する久保王将はタダの銀を取らず△6三銀引と自陣を引き締めた。飛車先を通し、受け流しながらさばきの妙技を披露した久保王将がペースをつかむと、終盤は差を広げて勝利した。佐々木六段は「中盤以降は何もできなかった」と唇をかんだ。注目の若手との対戦で、久保王将の不動心が光っていた。

その後、2020年の竜王戦本戦でも2人は対局し、佐々木八段は敗れている。そして、今期の竜王戦本戦の初戦で久保九段との対局が決まった佐々木八段。他棋戦で久保九段に勝利しているものの、竜王戦では2戦2敗。いきなりの鬼門だ。「久保先生はいつも竜王戦本戦に勝ち上がっているイメージです。なかなか勝たせてくれない相手。しっかり準備して臨みたい」と話していた佐々木八段に対し、久保九段は「佐々木さんはA級棋士でもあり、既にトップ棋士という認識です。強い方との対局が楽しみです」と語った。かつては久保九段がはっきり格上であったが、今は状況が変わっている。
「三度目の正直」で臨んだ今期竜王戦、佐々木八段は急戦で挑む

関西将棋会館の御上段の間で行われた対局は、久保九段の四間飛車に後手の佐々木八段が得意の急戦を仕掛けた。中盤の分かれは、先手が存分に飛車をさばき、後手は角銀交換の駒得と互いに主張がある展開だった。第2図は佐々木八段が△5七歩と打ったところ。鋭角的な棋風がよく出ている。この手に対して久保九段は▲5九金引として、金銀の連結を崩さない。この後も、均衡が保たれた中盤戦が長く続いた。

久保九段リードの終盤で飛び出した迫力満点の勝負手△3四飛
そんな混戦を抜け出したのは久保九段だった。終盤の入り口でリードを奪い、堅陣を頼みに速度勝ちを狙って▲5三銀と食いついた第3図で佐々木八段は考慮に沈んだ。平凡な受け方では後手陣はもたない。しっくりくる手が見えづらい局面で、佐々木八段は手をひねりだした。31分を使って△3四飛(第4図)と貴重な飛車を手放した。「消去法です」と局後は謙遜したが、善悪を超越した迫力満点の勝負手だ。
攻めに使いたい大砲を、じっと我慢して自陣に△3四飛とは、なかなか浮かばない手だ。久保九段は「時間がない中で無数の選択肢を突きつけられ、勝負所で間違えてしまった」と振り返る。第4図から▲4二銀成△同金▲5四桂△5二金▲3六香△3五歩▲4五金と進み、先手の攻めがやや重たくなった。劣勢だった佐々木八段は形勢を持ち直した。盤面を凝視して攻防手を探し続け、勝利への執念をうかがわせる。

強気な手で「鬼門」突破、藤井竜王「相手を楽にさせない将棋」と評価

終盤は形勢が二転三転し、どちらが勝つかわからない、手に汗握る展開に。持ち時間を使い切り、1分将棋で迎えた第5図の△2四桂は佐々木八段の攻撃性が色濃く出た手だった。自玉の逃げ道を狭くして怖い面もあるが、美濃囲いの急所であるコビン攻めを優先した。強気な手でペースをつかんだ佐々木八段は、176手の長期戦を逆転で制した。竜王戦で「三度目の正直」と言うべきか、久保九段戦という分厚い「鬼門」を突破した。

藤井竜王は、今期の佐々木八段の勝ち上がりの中で、久保九段戦が最も印象に残っているという。「佐々木八段は鋭い攻めが持ち味ですが、形勢が悪かった久保九段との一戦では、粘り強い受けで決め手を与えませんでした。攻防で優れた手が多く、相手を楽にさせない将棋です」と評した。
7年前の「心残り」を胸に、プロ14年目のタイトル初挑戦

本戦の初戦に勝って勢いに乗った佐々木八段は、準決勝で佐藤康光九段に勝利し、挑戦者決定三番勝負では、竜王獲得経験のある広瀬章人九段に連勝して挑戦権を獲得した。「七番勝負は勝たなくちゃいけない」と局後は強気な発言もあった佐々木八段。初のタイトル挑戦まで14年の月日を要した。「7年前に藤井さんの連勝を止めた後、自分はちゃんとしていなかった。あんなに早く八冠になるとは」と率直に振り返った。胸に響く勇気節だった。
「藤井時代」で火がついた勝負師魂、「第6局・指宿対局までは勝たないと」

8月下旬、竜王戦七番勝負に向けてポスター撮影を行った佐々木八段は「着付けの練習はいつしようかな」と笑みを浮かべた。「お世話になっている指宿白水館の対局は第6局なので、なんとかそこまでは勝たないと。時間はないかもしれませんが、自分はまだ強くなれると思っています。実力を高めて藤井竜王と向き合いたいです」と話した。
天真




























