永世竜王の資格得た藤井聡太竜王「今より強くなっている状態で10年後を」…竜王戦七番勝負を振り返る
完了しました
将棋の第38期竜王戦七番勝負は、藤井聡太竜王が2期連続で挑戦者となった佐々木勇気八段をストレートで退け、5連覇と永世竜王の資格獲得を成し遂げた。28日午後6時から東京都渋谷区のセルリアンタワー東急ホテルで開かれる就位式を前に、藤井竜王が歴史的な七番勝負を振り返った。(文化部 星野誠)

最近は認識のある局面でも違う指し方、経験値を増やす
――前期七番勝負は通算4勝2敗で防衛しましたが、全体的に苦しい時間が長かった。今期はどのようなシリーズでしたか。
前期の七番勝負を通じて佐々木八段の強さというものを感じました。それを踏まえてどう戦うかというのが、自分にとってのテーマでありました。今期はこちらからも工夫し、積極的に指していくことができたかなと思います。
――藤井竜王はこれまで、挑戦者が用意した作戦を真正面から受けて立つことが多かった。今期の戦い方の変化には驚きました。

佐々木八段はかなり多彩な作戦を指されて、1局ごとに新しい工夫があるので対策はかなり難しい。すべてを予想することはできないので、こちらの方からも少し、今までと違うことができればいいかなと思いました。竜王戦は2日制で持ち時間も長いので、経験不足を読みでカバーしやすいということもあります。
――これまでと違う指し方に興味が出てきたというところもありますか。
そうですね。以前は「マイ定跡」みたいな感じで、この局面であればこう指すと決めているところがありました。最近は認識のある局面であっても違う指し方をしてみるのが、自分の経験になると考えるようになったので、そういう指し方についても調べています。
――今シリーズと並行して行われた伊藤匠二冠との王座戦ではフルセットの末、失冠しました。影響は。
王座戦第5局(昨年10月28日)は明確なチャンスを逃した将棋ではなかったので、結果としては仕方ないと受け止めていました。それよりも、逆転負けした第2局のほうが痛かった。何でこんな手を指したかなという悔しい気持ちを数日間引きずってしまいました。
――竜王戦は4連勝で5連覇となりました。この5年間で成長したと思うところは。
最初に竜王戦に出た豊島将之九段との第34期は、序盤で失敗してしまうことがありました。第1局と第3局はどちらも先手番なのに1日目で失敗してしまって苦しくなった。その辺りの局面の認識であったり、構想の立て方であったりはこの5年間で良くなったと思います。
――特に印象的なシリーズは。
シリーズというより、対局ごとでしょうか。まずは豊島九段との第34期第4局。終盤戦が非常に難解で、何時間考えても結論をはっきり出すのが難しい状況でした。実戦の終盤でそういう局面になるのは少ないので、印象に残っています。一番うまく指せたという点では、伊藤二冠との第36期第3局。積極的な手を続けて勝ち切ることができたので、手応えを得られた対局でした。

――改めて、永世竜王獲得について所感を。
永世竜王は連続5期か通算7期が条件です。連覇という形でなければさらに難しくなるので、今回の機会を生かして資格を得られたのはうれしいです。
――棋士生活10年目に入りました。10年後はどうなっていると思いますか。
私と永瀬拓矢九段が10歳差です。永瀬九段を見ていると、20代後半から30代にかけて実力を伸ばされている。私もそういった姿勢を見習って、いまより強くなっている状態で10年後を迎えたいと思います。
決着の第4局…突破口を探り、△7五桂▲同歩△8三桂の勝負手
史上3人目の永世竜王記念として、藤井聡太竜王による特別自戦解説を掲載する。(構成、星野誠)
今回は私の永世竜王記念ということで、竜王5連覇を決めた七番勝負第4局を解説します。佐々木勇気八段がかなり工夫をこらされていて、一局を通して非常に勉強になる将棋でした。最後までおつきあいください。
本局は角換わり腰掛け銀模様に進みました。このシリーズでは初ですが、佐々木八段も得意とされている戦型なので、ついに来たかという感じです。急戦含みの出だしに対し、早めに24手目△5二金と上がって右玉で待ち構えたため、じっくりと戦機をうかがう持久戦となりました。

飛車先交換から74手目△8一飛と引いた第1図をご覧ください。昨年末に放送されたテレビ番組で、永瀬拓矢九段は「角換わり以外の将棋は木刀、角換わりは真剣」と話されていましたが、本局はここまで、一直線で斬り合うというよりも木刀のような展開となっています。先手から手を作っていけないと

第1図で▲3五歩と突き捨てて△同歩に▲8五桂打が珍しい筋です。△同桂▲同桂△同飛なら▲7三角と打つのが急所で、△4二玉▲9一角成(変化1図)。桂香交換で駒得はしていませんが、次に▲8六香で飛車が取れる。△8三飛とかわしても▲9二馬と飛車を目標にしていけば、先手が自然に良くなりそうです。なかなか出てこない手ですが、ここでは好手でした。この手の組み合わせは、研究段階では非常に気づきにくく、佐々木八段の視野の広さを感じました。
実戦は▲8五桂打に△6一桂と我慢しましたが、▲7三桂成△同桂▲8五桂打△6一桂と一瞬、千日手模様に進んだ後、▲8六歩と支えるのがまた良い手。▲8五桂打は△6一桂と打たせることで8一の飛車の横利きも縦の利きも止めてしまう狙いがあったのです。

▲8六歩△4二玉に▲1五歩が封じ手の局面です。私にとっても本命の手で、△同歩と取る一手ですが、以下、▲2四歩△同歩▲1五香△同香▲2四飛△2三歩▲1四飛という筋を狙っているはず。それなら対応できると思っていたのですが、本譜は▲1五歩△同歩と突き捨てておいて▲8八玉(第2図)と上がったのが非常に高度な好手で、先手が一本取った形です。
第2図から△8四歩▲7三桂成△同桂とした後、▲4五歩△同歩▲4六歩とあわせるのが急所の攻め筋。玉が7九にいると、どこかで角の王手がかかりそうなので、先手が4筋から攻めていくのはリスクがありました。▲8八玉と一つ遠ざかったことで、▲4六歩がかなり効果的な攻め方になっています。△同歩▲同銀は先手の攻めが止まらない形になり、かといって、▲4五歩~▲4四桂の狙いを後手が受けるのも難しい。駒の損得は特にないですが、指されてみると、はっきり苦しさを感じました。

受けてだめなら攻める。私はここで本局最長の1時間16分を使って、突破口を探りました。まず、△8五歩▲同桂△同桂と桂交換して局面をほぐす。そこで▲4五歩に△8七歩▲同金△7五桂▲同歩△8三桂(第3図)が勝負手です。もし▲4四桂なら△同銀▲同歩△7五桂▲8五歩△6七桂成▲同金に△7五桂のおかわりで攻めていくと、次に△8六歩▲同金△6七桂成で詰めろがかかる形になり、攻めの速度が逆転します。つまり、△7五桂~△8三桂は桂を捨てて攻めることで、▲4四桂をけん制しているのです。

先手は桂を渡せないので▲4六桂と控えて打ち、△3六歩▲3三歩から攻め合いになりました。最終盤の119手目▲8一飛と王手した第4図が本局のクライマックス。△6一銀と合駒すると▲7三桂△7二角▲6一桂成△同角に▲3二とが詰めろになっていて、先手の勝ちです。例えば△5八ととすると、▲4二金△同金▲同と△同玉▲3三桂成△同玉▲3四銀△同銀▲4四金△3二玉▲3三歩△2一玉▲6一飛成△3一桂▲3二歩成△同玉▲3三金(変化2図)△同玉▲4二角△同玉▲3四桂という妙手順で後手玉が詰みます。

本譜は合駒ではなく△6二玉とかわしました。▲8二飛成に△5三玉は▲3五桂が詰めろで受けづらいので、ここで△7二銀打の合駒。▲8三歩成からの寄せ合いは後手玉に詰めろが続かず、勝ちとなりました。
振り返ると、本局に永世竜王の資格がかかっていることは意識していませんでした。ただ、注目していただいている中で、最後まで際どい局面が続く熱戦を指せたことをうれしく思います。
第4局棋譜 ▲佐々木-△藤井
▲7六歩△8四歩▲2六歩
△3二金▲2五歩△8五歩
▲7七角△3四歩▲8八銀
△7七角成▲同 銀△2二銀
▲1六歩△1四歩▲3八銀
△3三銀▲3六歩△6二銀
▲4六歩△7四歩▲7八金
△9四歩▲3七桂△5二金
▲9六歩△6四歩▲6八玉
△6三銀▲4七銀△7三桂
▲6六歩△8一飛▲4八金
△6二玉▲7九玉△5四歩
▲5八金△4四歩▲2九飛
△7二玉▲8八玉△6二金
▲5六歩△5二金▲6八銀
△4二銀▲6七銀△4三銀
▲7七桂△3三桂▲2四歩
△同 歩▲同 飛△2三歩
▲2九飛△6二玉▲2四歩
△同 歩▲同 飛△2三歩
▲2九飛△5三金▲2五桂
△同 桂▲同 飛△5二金
▲2九飛△5一玉▲7九玉
△8六歩▲同 歩△同 飛
▲8七歩△8一飛▲3五歩
△同 歩▲8五桂打△6一桂
▲7三桂成△同桂▲8五桂打
△6一桂▲8六歩△4二玉
▲1五歩△同 歩▲8八玉
△8四歩▲7三桂成△同 桂
▲4五歩△同 歩▲4六歩
△8五歩▲同 桂△同 桂
▲4五歩△8七歩▲同 金
△7五桂▲同 歩△8三桂
▲8五歩△7五桂▲4六桂
△3六歩▲3三歩△同 金
▲3四歩△3二金▲2五桂
△3七歩成▲3三歩成
△5一玉▲8四角△同 飛
▲同 歩△4七と▲8一飛
△6二玉▲8二飛成
△7二銀打▲8三歩成
△8七桂成▲同 玉△8六歩
▲7八玉△5八と▲7二と
△同 銀▲7三銀△5一玉
▲5八銀△7六角▲9一竜
△6一銀▲6八玉△4八角 まで藤井竜王の勝ち

主 催=読売新聞社、日本将棋連盟
特別協賛=野村ホールディングス
協 賛=東急グループ、UACJ、旭化成ホームズ、あんしん財団、日本中央競馬会


























