戦型を誘導も挑戦者の対策は不発、勝ち方を示された▲3七桂…開幕局は王者の完勝譜[第38期竜王戦]七番勝負第1局 藤井聡太竜王×佐々木勇気八段戦<後編>

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第8譜

七番勝負第1局
(先)竜王 藤井聡太×八段 佐々木勇気
▲8五歩 111 △3四飛 7
▲8六飛 1 △3五飛 17
持ち時間各8時間
△3・20分▲2・45分34手

ほしかった先手

 1日目の朝、気になる出来事があった。振り駒の際、佐々木は白布に散った駒を見つめ、小さく首を振ったのだ。遠目には、後手番を引いて参ったという表情に見えた。

 本人に聞くと、やはり「先手番がほしかった」という。一つは戦略面での理由。「横歩取りはどこかで投げたかったが、第1局で先手をもらい、先後が決まっている第2局で使いたかった」

 もう一つの理由が興味深かった。今期は第1局から第3局までの対局場が、前期とまったく同じという珍しいケースである。「前期も第1局が後手番だったので、先手番スタートで違う展開になるか体験したかった」。何事も経験、というスタンスが佐々木らしい。

 午後のおやつは藤井がメロンのショートケーキ「プレミアムメロン」、佐々木は紫のモンスターをイメージしたハロウィーン限定の「紫芋のモンブラン」を選んだ。

 図で藤井は長考の末に▲8五歩と押さえた。このとき△3四飛と△5四飛の比較が難しい。感想戦で△5四飛は▲8六飛△7四歩▲8四歩△8二歩▲6五桂△6四歩▲3三角成△同桂▲7一角でどうかとなった。

 増田八段は「この変化は△5四飛が△3四飛よりも攻防に利く。藤井さんは△5四飛に▲8六飛と回れるかを長考したのでは」と推測した。

 本譜は△7四歩と突く方向性ではない。△3五飛(指了図)と浮いて揺さぶった。(松本哲平)

本局を検討した増田八段=吉田祐也撮影
本局を検討した増田八段=吉田祐也撮影

第9譜

七番勝負第1局
(先)竜王 藤井聡太×八段 佐々木勇気
▲7六飛 52 △5五角 9
▲8四歩 8 
持ち時間各8時間
△3・29分▲3・45分37手

封じ手に長考

 控室では図から▲8四歩と△8二歩の交換を入れる順を調べていた。以下▲7六飛は△3四飛▲8六飛△3五飛で千日手を狙われるため、▲8五飛といびつな形を強制される。これでも先手十分と検討陣は見ていたが、藤井はよりスマートな回答を提示した。

 じっと▲7六飛が落ち着いた対応だ。深浦九段は「味わい深いですね」とうなずく。これなら△3四飛は狙いに乏しい。本譜はジリ貧を嫌って△5五角と勝負に出たが、▲8四歩(指了図)が大きな一手になった。

 封じ手の定刻が迫り、能楽堂にファンが入ってくる。午後6時、深浦九段が「次の手を封じてください」と佐々木に告げると、佐々木は残り時間を確認して「しばらく考えます」と席を立った。規定上は残り時間が許す限り、どれだけ考えてもいいことになっている。1時間使ってもおかしくないな、と覚悟した。

 戻ってきた佐々木は盤上没我。頭を抱える姿に苦悩がにじむ。客席からは、静寂を守って身動きすらはばかられる気配が伝わってくる。定刻を過ぎること39分、ようやく佐々木から「封じます」の声がかかった。

 佐々木は開幕前のインタビューで「封じ手の時刻、無視します」と語ったが、まさに宣言通りの長考になった。佐々木が深浦九段に封じ手の入った封筒を預けて、1日目が終了。消耗のためか、佐々木の耳は赤く染まっていた。(松本哲平)

封じ手で長考した佐々木八段=富永健太郎撮影
封じ手で長考した佐々木八段=富永健太郎撮影

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