広く開架 本物が身近に 源氏物語 ガラスケースに<国学院大>
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若者が行き交う駅前の
18階建ての高層校舎が象徴する都市型のキャンパス。図書館は、公道を挟んで立つ学術メディアセンターの2階と3階を占める。5階まで吹き抜けの空間に設けられたエスカレーターに乗ると見えてくるたくさんの本に心が躍る。
この春に入学したばかりの1年生たちがやってきた。床の矢印に沿って書架や閲覧席を見て回り、漂う雰囲気を感じ取る。
経済学部を選んだ2人の新入生に声をかけた。今富輝さん(18)は「教科書に載っていた古典の翻刻本を見つけました」と高揚した様子。奈良から江戸時代まで約2万5000通の古文書群「
吉田有花さん(18)は「ネットでは得られない知識を深掘りできそう」と期待に胸を膨らませた。
図書館は2008年、この年に完工した学術メディアセンターに移ってきた。蔵書は143万冊。旧館時代は本を自由に手に取れる開架式の割合が3%ほどだったが、移転後は30%に引き上げられた。和書に限れば70%以上を開架にしているという。残りは地下2階の自動書庫にあるが、上階のカウンターで手続きすると短時間で手元に届く。
図書館長で神道文化学部教授の遠藤潤さん(59)は「明治時代に火事で蔵書を失ったが、全国の神社や資産家の寄付もあって持ち直すことができた。貴重書も活用して学び、本物を見極める力を養ってほしい」と語る。

そんな思いから、古典籍も学生の目に触れるよう工夫している。訪れた日、館内に入ってすぐのガラスケースで展示されていたのは「源氏物語(久我家嫁入本)」。江戸時代初期に公家の娘の嫁入り道具として作られたと伝わっている。54
温度や湿度にデリケートな古典籍の公開に難しさはあるが、受ける刺激は大きい。大学院で、都市の成立過程を研究している本多雄登さん(24)は「大学の長い歴史と人脈があって集められた『実物』を見て研究できるのは、この図書館の大きな魅力です」と話す。

新学年となってすぐにもかかわらず、館内には学生の姿が多い。吹き抜けに面した開放的なカウンター席、仕切りがあって一人で目の前の本に集中できる席。渋谷駅周辺のビル群を望める場所にも席があり、それぞれがお気に入りの閲覧場所に腰を落ち着け、つい長居しているようだ。
万葉集を学んでいる文学部3年生の半沢綾子さん(20)は、図書館に足しげく通う一人。「その日の気分で席を決め、集めてきた本を積み上げて過ごすのが好きなんです」と笑う。この日、傍らには「万葉ことば事典」「時代別国語大辞典」などを置いていた。
明治時代の文学を専攻する4年生の広岡隆晟さん(21)は研究の息抜きに、よく図書館内を散歩するという。「思いがけない本と出会えた時が楽しいんです。面白かったら、本好きの友人にLINEで教えています」
自然と足が向く図書館は、本好きの学生を、確かに育んでいる。
文・染木彩 写真・高橋美帆
[至宝]大日本帝国憲法の草案

近代化の過程にあった1887年(明治20年)に、政治家で官僚の井上毅が作成した大日本帝国憲法(1889年制定)の草案。「甲案」「乙案」で構成され、初代内閣総理大臣・伊藤博文らと神奈川の別荘や料亭にこもって練り上げていく際に用いられた。井上らが書き込んだ赤字の修正文が確認できる。
その渦中、料亭で事件が起きた。資料の類いを収めたかばんが盗まれた。翌日に見つかったが、大学の学術メディアセンター・図書館担当の安達匠さん(58)は「盗っ人がその価値に気付かず、奇跡的に無事だった」と話す。
大学は草案を含む井上の資料類や蔵書を所蔵。井上の雅号から「梧陰文庫」と名付けて大切に守っている。
[学長に聞く]原典にあたる大切さ…針本正行さん(74)

「教科書は全て正しいのか」「注釈書だけで勉強していないか」。私が国学院の学生時代、源氏物語を研究していた先輩に言われた言葉です。原文として資料に掲載されていても、句読点の位置に注釈者の意向が入っているかもしれない。原典にあたる重要性を痛感し、それから貴重な古典籍が豊富にある図書館に入り浸るようになりました。
今は容易に書籍を検索できますが、「百聞は一見にしかず」です。実際に書架を眺めていると、検索で見つからなかった本に出会うことがあります。本という大学の財産に触れることで、「知」との縁を紡いでほしいと思っています。

■大学概要 古典研究と神職養成を目的に、明治政府が1882年(明治15年)に創設した「皇典講究所」が母体。1920年(大正9年)に日本で初めて認可された私立大の一つ。渋谷と、たまプラーザ(横浜市)の二つのキャンパスに文、法、観光まちづくりなどの6学部13学科があり、約1万1500人が学ぶ。神道の祭式作法などを学ぶ神職課程を有し、2024年度は神道文化学部卒業生の約45%が進路に選んだ。出身者は全国各地の神社で活躍している。渋谷キャンパスには「神殿」もある。
■図書館 図書館の入る学術メディアセンターは地上5階地下2階建て。図書館内には靖国神社や伊勢神宮など全国の神社の広報誌を集めたコーナーもある。考古学標本室(1928年創設)と神道学資料室(63年創設)を源流とする大学博物館が地下1階にあり、一般の見学も可能(休館日不定期)。


























