6年生後期で失速する原因は「教えすぎ」にあり…粟根秀史<21>

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「教えすぎ」は子供の思考を停止させる

 「うまい教え方」とは何かを考えるとき、「分かりやすい教え方」をイメージする方は多いと思います。

 進学塾での授業、家庭教師や個別指導、または親が勉強を教えるなど、どれも「分かりやすさ」が要求されるはずです。そして、熱心な教え手ほど、かゆいところに手を届かせるようにして、あれやこれやと懇切丁寧に教え込んでしまうのです。

 ここに、教えることの落し穴があります。何もかも教えようとすると、子供の方はかえって浅い理解しかできないのです。さらに、「教えすぎ」は子供の考える主体性を奪ってしまうことにもなりかねません。

 進学塾では、週ごとに復習テストが実施されます。6年生前期までは、解法パターンさえ覚えておけば速やかに処理できる問題がほとんどです。6年生後期からは、実際の入試問題に対応するため、「初見」の応用問題が増えます。これらの応用問題は、問題文を読んでも、また図形を見ても、すぐに解き方が分かるわけではありません。答えに直結する計算の前の段階である条件整理や試行錯誤が必要なのです。

 この時期になって失速してしまう子供がいます。上記のような「教えすぎ」から学習スタイルが丸暗記に偏ってしまい、「自ら考える訓練」が不足していることが主な原因です。

質問教室や解説動画の誤った利用

「教えすぎ」は子供の考える主体性を奪ってしまうことも……(写真はイメージです)
「教えすぎ」は子供の考える主体性を奪ってしまうことも……(写真はイメージです)

 大手塾では授業前後の時間に「質問教室」を設けています。中小の塾でも「分からないことがあったらいつでも質問に来てね」と先生は言ってくれます。

 親の方も、応用問題に手こずっている我が子を見ると悩んでいる時間がもったいないと感じ、「塾の先生に質問してきなさい」などと促すことでしょう。塾のサービスを最大限に利用し、一問でも多く質問して理解してほしいと思うのは当然です。

 質問教室を上手に利用することはとても大切です。しかし、たくさん質問すれば学力が上がるというわけではありません。「どれだけ質問するか」ではなく「どのように質問するか」が大事であり、ここを間違えると効果がないばかりか、逆にその子の伸びる芽を摘んでしまうことになりかねません。

 最も良くない質問の仕方は「この問題の解き方が分からない」と言って、「解く手順すべてを説明してもらう」ことです。間違った質問の仕方を身に付けてしまうと、自分で考えるということをしなくなり、授業中でも「分からなければ質問教室に行けばいい」という安易な考えから、集中の度合いが低くなってしまいます。

 授業中の理解度が低いことが原因で質問する問題数がさらに増え、復習する時間が余分にかかるという悪循環に陥るのです。

 また、最近では「解説動画」の人気が高まっているようです。自宅にいながらいつでも解説を見ることができる便利さがその理由でしょう。しかし、この手軽で便利なツールも依存してしまうと逆効果です。

 問題の解き方が分からない場合、すぐに解説動画に頼ることになり、解き方の一から十まですべての説明を聞いて、自分では理解したつもりになります。

 動画を見た後に自分で解き直してみて、最終的に解けるようになればよいではないか、と思われるかもしれません。ところが、このプロセスには「まずは自力で考える時間」が抜け落ちています。自分で条件を整理したり、試行錯誤したりする能力が養成できていないのです。

「自問自答」することが考えることにつながる

 では、「自力で考える」とは具体的にどのような行為を指すのでしょうか。低学年のうちから、教えられることに慣れた子供たちは、「考えなさい」と言われてもどうすればよいのか分からないのが実情です。そこで、「算数の応用問題を考える」とはどういうことなのか確認しておきましょう。

 まずは、自分で自分に「問いかける」ことです。

 ●今、何の条件が分かっている?

 ●あと何が分かれば答えが求まる?

 ●この問題のテーマについて自分は何を知っている?

 ●問題文の「たとえば、~」の部分に何かヒントがあるのではないか?

 ●なぜ、(2)の前に(1)があるのか?

 ●まだ使っていない条件はどれなのか?

 こうしたことを頭の中で整理したり、書き出したりして、粘り強く自ら答えを導こうとすることが肝要です。考えを進めるための基盤となるのは「自問自答する」ことなのです。

 事前にこの時間を設けることで、分からないことの絞り込みができます。これによって、質問教室や解説動画の内容の吸収度も高まり、真の意味での効率的な学習ができるでしょう。

 作家であり、工学博士でもある森博嗣氏は、著書「勉強の価値」(幻冬舎新書)の中で、教えてもらうことや質問することについて次のように述べています。

 「人から教えてもらおう、と考えることで、『学ぼう』という主体性の大半が失われてしまう。自分の頭で考え、自分で試し、自分で体験するという楽しみを、放棄しているようなものである」

 「質問をすることは、重要だ。質問が悪いわけではない。常に問うこと。何事にも疑問を持ち、何が問題であるか。自分は何がわからないのか、を認識する。ここがすべての『勉強』のスタートである。そして、あらゆる質問に、まず自分が答えよう。つまり、自問自答しよう」

 これらの主張は勉強の本質を捉えています。「子供自らが考える力」は「教えて身に付く」ものではなく「引き出される」ものです。そのためには「自問自答」のトレーニングが欠かせません。

 失速する危険性の高い「解法手順を教え込む」だけの指導から脱却し、あと伸びができるように「考える力を引き出す」指導に重点を置くようにしてください。

プロフィル
粟根 秀史( あわね・ひでし
 教育研究グループ「エデュケーションフロンティア」代表。森上教育研究所客員研究員。大学在学中から塾講師を始め、35年以上にわたり中学受験の算数を指導。首都圏の大手進学塾教室長、私立小学校教頭を経て、現在は算数教育の研究に専念する傍ら、教材開発やセミナー、講演を行っている。また、独自の指導法によって数多くの「算数大好き少年・少女」を育て、「算数オリンピック」金メダリストや灘中、開成中、桜蔭中の合格者などを輩出している。「中学入試 最高水準問題集 算数」「速ワザ算数シリーズ」(いずれも文英堂)など著作多数。

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