鉄鋼会社がテレビCMを出す理由/読売新聞東京本社経済部デスク 香取直武
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昨年、いくつかのテレビCMが目にとまりました。一つは俳優の川口春奈さんが「日本製鉄中」というかけ声で体操するという、鉄鋼最大手、日本製鉄のCMです。
また、ライバル社のJFEホールディングス(HD)のCMでは、お笑いコンビ「サンドウィッチマン」が登場し、キャッチコピーの「サス鉄ナブル!」を紹介しています。「持続可能」を意味する「サステナブル」をかけたものです。神戸製鋼所も俳優の奈緒さんを起用しました。
鉄鋼会社は、製造した商品を企業向けに販売する「BtoB企業」の代表格です。一般的にBtoB企業は、消費者に直接訴えかけるテレビCMには積極的ではありません。商品の売れ行きに直結しないため、効果が見えづらいからでしょう。
そうした企業がそろってテレビCMを流した背景にあるのが人手不足です。企業としての認知度をアップさせ、社員の士気向上や採用力の強化につなげる狙いがあります。
昨年、JFEHDの柿木厚司社長にインタビューした際に聞いてみると、「製造業もそうですけど、若い人の離職率が高くなっている。若い従業員のエンゲージメント(やりがい)もありますね」と話されていました。
鉄鋼会社のテレビCMが話題になったことがバブル期にもありました。1990年3月17日の読売新聞経済面には、「やわらかCMも好評 意外性アピール」という記事が掲載されていました。
JFEHDは、川崎製鉄と日本鋼管(NKK)が経営統合して誕生した企業です。その川崎製鉄は、人気番組だった「イカすバンド天国」に出演したバンド「たま」をCMに起用しました。神戸製鋼のCMでは「巨人の星」や「サイボーグ009」のキャラクターが登場しました。日経平均が史上最高を記録した当時の就職戦線では、銀行や証券会社の人気が高まりました。記事は、「『変身する鉄鋼のイメージを強くアピールしたい』としているが、金融業をはじめとするサービス業に奪われがちな新卒学生を呼び戻そうというのが本音」と指摘しています。
昨年来、日本製鉄やJFEHD、神戸製鋼がそろってテレビCMを流したのは、少子化と景気回復が重なり、各社の人集めがバブル期に勝るとも劣らないほど、難しくなっているということだと思います。

人手不足の深刻化は賃金にも影響を及ぼしています。これから春闘が本格化しますが、初任給の引き上げを表明した企業が相次いでいます。経団連は1月、初任給について、「賃金引き上げの有力な選択肢」と位置づけ、大幅に引き上げる際は、年次差による賃金逆転が生じないよう「若年社員を対象とした重点的なベア」の検討を求めました。
かつて川崎製鉄や神戸製鋼がテレビCMを流した直後、バブルは崩壊し、「就職氷河期」が到来しました。当時、就活をしていた筆者からすると、現在の売り手市場や初任給の引き上げは隔世の感があります。
学生の方々には、チャンスの多い就職戦線でしょう。米国の鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーは「チャンスに出会わない人間は、一人もいない。それをチャンスにできなかっただけである」と言いました。ぜひ、今の経済状況を生かし、志望企業の内定をつかんでほしいと思います。
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