「ささやき」の末に名店廃業、「船場吉兆」次男の十字架…2007年12月[あれから]<62>

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記者会見で謝罪する「船場吉兆」取締役だった湯木佐知子さん(2007年12月10日)
記者会見で謝罪する「船場吉兆」取締役だった湯木佐知子さん(2007年12月10日)

 テレビ画面の向こうで、母・佐知子さん(88)=当時70歳=と兄がカメラのフラッシュを浴びている。

 とその時、報道陣の質問に窮した兄にこう答えるよう、母がうつむきがちにささやいた。「『頭が真っ白になった』と……」

 牛肉の産地偽装などの不祥事を起こした大阪の高級料亭「船場吉兆」。2007年12月、取締役を務めていた母と兄が謝罪の記者会見を開いたとき、 湯木(ゆき) 尚二さん(56)=当時38歳=は取材攻勢から逃れてビジネスホテルに身を潜めていた。次男である自分も取締役。「うまく事が運んでくれないか」と祈った。

 甘かった。母のささやきはマイクに拾われて、「ささやき 女将(おかみ) 」のあだ名をつけられた。

 店は廃業に追い込まれ、すべてを失った。18年を経て、今こう思う。「人間、失敗しても何度でもやり直せる」(社会部 押田健太)

 自分たちに非があるのは確かだ。だが、母の「ささやき」がこんなにも世間を騒がすなどとは思いもしなかった。しかも、それから半年もたたないうちに廃業を余儀なくされるとは。

 「船場吉兆」。「料理の名演出家」と評された湯木 貞一ていいち さん(1901~97年)が1930年に創業した料亭「吉兆」グループの一つだ。政財界の大物も利用する大阪随一の高級料亭で、2007年当時に取締役を務めていたのが、貞一さんの孫である湯木尚二さん(56)や兄、そして湯木さんの母・佐知子さん(88)だった。

 名門料亭の崩壊につながる不祥事は、くしくも湯木さんが任されていた福岡市の物販店が発端となった。

 「消費期限を改ざんしているという通報があった」。地元の保健所がそうした情報を得て湯木さんの店の調査に入ったのは、07年秋。仕入れや売り上げに関する資料が調べ上げられ、賞味・消費期限が切れた菓子について、表示ラベルを貼り替えて売っていた事実が明るみに出たのだ。

 胸に手を当てて考えてみる。商品が売れ残る度に、「残さんよう、しっかり販売してや」と現場を叱りつけていた。売り上げの数字ばかりを追求するあまり、現場を追い込んでいた自分に全責任があるのは疑いようもない。

 同年10月末、記者会見で謝罪した。「ささやき 女将おかみ 」による謝罪会見の1か月半前の出来事だった。

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